就労継続支援A型事業所が「助成金目当て」といわれてきた背景には、過去の制度の抜け穴を悪用した問題が実際に存在しました。ネットで検索すると今もその言葉が出てくるため、「利用して大丈夫なのか」と不安に感じる方もいるでしょう。
ただし、問題の大部分は10年ほど前の出来事であり、その後の複数回にわたる制度改正によって状況は大きく変わっています。2024年4月の報酬改定では、助成金に頼った運営では事業の継続が難しくなる仕組みが本格的に導入されました。
この記事では、助成金目当て問題が起きた理由、制度がどのように変わったか、そして今後A型事業所を利用したいと考えているときに何を確認すればよいかを、公的情報をもとに整理します。利用を検討している方や、家族として情報を集めている方のお役に立てれば幸いです。
A型事業所が助成金目当てといわれてきた理由
「助成金目当て」という言葉がA型事業所に結びつくようになった背景には、特定の助成金の仕組みを悪用した問題事例があります。まずその経緯を整理しておくことが、現在の状況を正確に理解するうえで大切です。
問題の発端となった特定求職者雇用開発助成金の悪用
就労継続支援A型事業所(以下、A型事業所)は、障害や難病のある方が雇用契約を結んで働く場を提供する福祉サービスです。事業所には国や自治体から「訓練等給付費(自立支援給付)」と「雇用関係の助成金」の2種類のお金が支給されます。
このうち問題となったのが、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」です。ハローワーク等の紹介で障害者を継続雇用した事業主に支給される助成金で、短時間労働者の場合は2年間で80万円、一定の条件を満たす場合は最大240万円(1人あたり・1年間)が支給される制度です。
この助成金は雇用促進が本来の目的ですが、支給期間が終わると同時に利用者を解雇し、新しい利用者を雇い直して再び助成金を受給するという手口が一部の事業所で横行しました。「2年で解雇される」という噂はここから生まれています。さらに事業所を一度閉鎖してリセットし、新たに開設した事業所として申請し直すケースもありました。
利用者に損害が及んだ具体的な状況
助成金の受給期間が終わる時期に合わせて、利用者への嫌がらせや不当な環境悪化によって退職に追い込む事例が、厚生労働省の審議会資料でも問題として取り上げられています。利用者は突然働く場を失い、次の就職先を探さなければならない状況に置かれました。
また、給付金(訓練等給付費)においても、利用者が通所していない日数を通所したと虚偽申告して不正受給する事案が報告されています。給付金の金額は事業所が国保連へ自己申告した内容をもとに計算されるため、不正が起きやすい構造になっていたことも問題を複雑にしました。
こうした状況に対し、財務省は年間約20億円規模の不正受給が存在するとして改革の必要性を指摘しています。なお、助成金目当ての問題は一部の事業所によるものであり、当時から健全に運営していた事業所の方が多数を占めていた点は確認しておくとよいでしょう。
助成金と給付金の違いを整理する
A型事業所がどこからお金を受け取っているのかを理解すると、問題の構造がよりわかりやすくなります。「訓練等給付費」は利用者が通所した日数に応じて毎月支給される給付金で、事業所運営費の大部分をまかなう主な収入源です。
一方の「特定求職者雇用開発助成金」は、採用時に申請して受給する雇用関係の助成金であり、支給期間に上限があります。重要なルールとして、給付金(訓練等給付費)からは利用者への賃金を支払えません。賃金は利用者が行った生産活動の収益から支払う必要があります。この原則が2017年の法改正で明確化されたことが、問題の縮小につながりました。
この助成金には支給期間の上限があるため、期間終了後に解雇→新規採用を繰り返す手口が横行しました。
現在は制度改正によってこの手口が通用しにくくなっています。
- 問題の発端は「特定求職者雇用開発助成金(特開金)」の悪用にある
- 「2年で解雇」という噂は、助成金の支給期間に合わせた不当解雇から生まれた
- 訓練等給付費(毎月の給付金)と雇用関係の助成金は別物である
- 給付金から利用者の賃金を支払うことは、2017年の改正で原則禁止となった
- 当時から健全に運営していた事業所が大多数であることも事実である
制度はどのように変わったか
助成金目当て問題が顕在化した後、厚生労働省は複数回にわたって制度の見直しを行いました。利用を考える際は、現在の制度がどういう状況にあるかを確認しておくとよいでしょう。
2015年・2017年の制度改正で変わったこと
2015年10月から、特定求職者雇用開発助成金に「一定の離職率を超える場合は不支給」という要件が追加されました。2017年5月の改正ではその基準が「離職率25%超の場合は不支給」に整理され、利用者を安易に解雇することが助成金受給上のリスクになる仕組みが整いました。
さらに2017年の改正では、A型事業所が利用者に支払う賃金は「生産活動の収益から支払うこと」が明確なルールとして位置づけられました。給付金を賃金に充てることの禁止が徹底されたことで、生産活動をおろそかにしたまま給付金と助成金だけで経営を続けることが難しくなりました。
あわせて、経営計画書・損益計算書・個別支援計画などの資料提出が事業所に義務づけられ、行政が経営実態を把握しやすくなりました。これらの改正が、助成金目当て事業所の大幅な減少につながったとされています。
2024年報酬改定で助成金依存経営が構造的に困難になった
2024年4月から施行された障害福祉サービス等報酬改定では、A型事業所の基本報酬を決めるスコア方式の評価項目が大幅に見直されました。なかでも影響が大きいのが「生産活動」スコアの配分引き上げです。
生産活動収支(生産活動収入から経費を引いた金額)が利用者への賃金総額を上回っている事業所は加点、下回っている事業所は減点される仕組みが強化されました。3期連続で生産活動収支が賃金総額を下回ると20点の減点となり、経営改善計画の提出が求められます。提出を怠ると50点の減点が加わります。
この改定によって、生産活動で収益を上げられない事業所は基本報酬の等級が下がり、事業継続が困難になる構造となりました。2024年以降、生産活動収益に依らず助成金・給付金への依存を主軸にした事業運営は、そもそも存続できない事業構造になってきたといえます。
現在も残るリスクと監視体制
制度改正が重ねられた現在でも、給付金の不正請求(架空の通所日数の申告など)はゼロではありません。2024年以降も、運営法人の指定取消処分を受ける事業所の事例が報告されています。
不正が発覚した場合は、加算額を上乗せした返還請求・指定取消・運営停止という行政処分の対象となります。悪意のない記入ミスであっても返還請求や処分につながることがあるため、事業所側には厳格な書類管理が求められています。
| 時期 | 主な改正内容 |
|---|---|
| 2015年10月 | 特開金に離職率要件を追加(一定率超で不支給) |
| 2017年5月 | 離職率25%超で不支給に整理。賃金は生産活動収益から支払う原則を明確化 |
| 2024年4月 | 報酬改定でスコア方式の生産活動配分を大幅引き上げ。助成金依存経営の事業継続が困難に |
- 2015年・2017年の改正で助成金悪用の「2年クビ」手口は実質封じられた
- 2017年の改正で賃金は生産活動収益から支払う原則が明確化された
- 2024年の報酬改定で生産活動収益が評価の中心となり、構造的な変化が起きた
- 不正請求はゼロではなく、現在も指定取消処分の事例は発生している
A型事業所のお金の流れを理解する
「助成金目当てかどうか」を見極めるためには、A型事業所がどのような収入源で成り立っているかを知っておくと判断の助けになります。構造を整理しておきましょう。
A型事業所の主な収入源は4つ
A型事業所の収入は大きく分けると、訓練等給付費(自立支援給付)・特定求職者雇用開発助成金などの雇用関係助成金・生産活動収益・その他の補助金の4つです。このうち日常の運営を支える主な柱は訓練等給付費と生産活動収益です。
訓練等給付費は利用者の通所日数と事業所のスコアに応じて算出され、スコア次第で金額が変わります。目安として利用者1人あたり月額12万円から14万円とされています(事業所規模や加算状況により変動します)。生産活動収益は利用者が作業・仕事を行って得た売上で、この収益から利用者の賃金を支払う必要があります。
一方、特定求職者雇用開発助成金は採用時に申請する一時的な支援であり、支給期間に限りがあります。この助成金のみに経営を頼る事業所は、支給が終わった後に経営が成り立たなくなるリスクを持ちます。
給付金から利用者の賃金を払えない理由
「事業所が給付金をもらっているなら、そこから賃金を払えばよいのでは」と思う方もいるかもしれません。ただし、A型事業所では訓練等給付費から利用者の賃金を支払うことは原則として禁止されています。賃金は利用者が実際に行った生産活動の収益から支払うことが法令上求められています。
この原則が守られているかどうかが、事業所の健全性を見る基本的なポイントです。生産活動収益が利用者への賃金総額を下回っている状態が続く事業所は、制度上「経営改善計画」の提出を求められます。この情報は後述する情報公表システムで確認できます。
なお、訓練等給付費は事業所の運営経費(支援員・職業指導員などの人件費、光熱費等)に充てることはできます。「給付金で食べているから助成金目当てだ」という見方は、制度の仕組みを正確に反映していません。
事業所が赤字でも倒産しにくかった構造的問題
以前は、生産活動収支が赤字でも訓練等給付費と助成金があれば事業を続けられる構造になっていました。全国の就労継続支援A型事業所のうち、生産活動収益で利用者の賃金をまかなえていない事業所が半数以上存在するという調査結果があります(厚生労働省「就労継続支援A型における生産活動の状況」参照)。
2024年の報酬改定はこの構造に直接メスを入れたものです。生産活動スコアの配分が高まったことで、赤字状態が続く事業所は基本報酬が下がり、経営継続が難しくなります。「助成金・給付金があれば生産活動は後回しでよい」という事業運営は、現在の制度では持続できなくなっています。
利用者の賃金は生産活動収益から支払う必要があり、給付金から賃金を払うことは原則禁止です。
2024年の報酬改定で、生産活動収益を上げていない事業所は報酬が減る仕組みが強化されました。
- 訓練等給付費は利用者の通所日数とスコアで決まる毎月の給付金である
- 利用者の賃金は生産活動収益から支払う必要があり、給付金流用は禁止されている
- 特定求職者雇用開発助成金は期間限定であり、これのみに依存した経営は成立しない
- 2024年改定で生産活動スコアの配分が引き上げられ、赤字経営の事業所は報酬が下がる
信頼できるA型事業所を選ぶための確認ポイント
利用を検討するとき、「この事業所は大丈夫か」と不安に感じるのは自然なことです。公的な確認手段と見学時のチェックポイントを知っておくと、判断の材料が増えます。
障害福祉サービス等情報公表システムを活用する
厚生労働省が運営する「障害福祉サービス等情報公表システム」では、全国の事業所の経営状況・職員数・保有資格・サービス内容などが公開されています。インターネットで無料で確認でき、事業所の詳細情報や運営法人名も調べられます。
確認したいポイントは、事業所が経営改善計画の提出を求められていないか、直近の経営状況に異常がないかなどです。また、2024年の改定からスコアの情報公表の仕組みも設けられているため、事業所ごとのスコア状況も参考にできます。最新情報は「障害福祉サービス等情報公表システム」(厚生労働省公式)でご確認ください。
WAM NET(ワムネット)でも事業所検索ができます。都道府県ごとに絞り込んで近隣の事業所を探すことができ、基本情報の確認に便利です。
見学・体験利用で現場を確認する
事業所の見学は利用前の重要なステップです。作業環境・スタッフの対応・他の利用者の様子など、書類ではわからないことを直接確認できます。見学のときに確認しておくとよい点として、仕事の内容と自分のペースへの配慮、一般就労に向けた支援があるかどうか、支援員が利用者と丁寧にコミュニケーションを取っているかなどがあります。
体験利用ができる事業所も多くあります。数日間の体験を通じて、自分の体調や特性に合った環境かどうかを確かめるとよいでしょう。見学時に「生産活動の収益で賃金を支払っているか」「月の平均賃金はいくらか」を率直に聞いてみることも一つの方法です。
スタッフの態度が気になる場合は、口コミや利用者の評判も参考になります。支援の姿勢は日常の関わりに表れやすいため、見学時の印象を大切にしてください。
トラブルが起きたときの相談先を知っておく
利用を始めた後に不当な扱いや解雇が疑われる場合は、居住地の市区町村の障害福祉担当窓口や、都道府県の障害者相談支援事業所に相談できます。雇用契約を結んでいるA型事業所の場合は、労働関係のトラブルとしてハローワーク・労働基準監督署への相談も選択肢になります。
給付金の不正請求が疑われる場合は、都道府県の障害福祉主管部署への情報提供が窓口です。不当解雇を受けた場合は、弁護士や法テラス(日本司法支援センター)に相談することで法的な対応の見通しを確認できます。一人で抱え込まずに、制度上の窓口を使うことが大切です。
| 確認手段 | 確認できる内容 |
|---|---|
| 障害福祉サービス等情報公表システム | 経営状況・職員数・保有資格・サービス詳細・スコア情報 |
| WAM NET(ワムネット) | 都道府県別の事業所基本情報・所在地・定員 |
| 見学・体験利用 | 作業内容・スタッフ対応・生産活動の状況・利用者の雰囲気 |
| 市区町村の障害福祉窓口 | トラブル時の相談・苦情受付 |
| ハローワーク・労働基準監督署 | 雇用・労働に関するトラブルの相談 |
- 障害福祉サービス等情報公表システムで経営状況・スコアを事前確認できる
- 見学時に賃金水準・仕事内容・一般就労への支援体制を確認するとよい
- 体験利用を活用して自分の体調・特性に合った環境かを見極める
- トラブル時は市区町村窓口・ハローワーク・法テラスへの相談ができる
- 不当な扱いを受けた場合は一人で抱え込まずに相談窓口を使う
まとめ
「A型事業所は助成金目当て」という言葉は、10年ほど前に特定求職者雇用開発助成金を悪用した一部の事業所の問題に端を発しています。2015年・2017年の制度改正を経て悪質な手口は大幅に封じられ、2024年の報酬改定によって生産活動収益を上げられない事業所は構造的に存続が困難になりました。現在も不正事例がゼロではないことは事実ですが、当時と同じ手口が通用する状況ではなくなっています。
これからA型事業所を利用したいと考えている方は、まず「障害福祉サービス等情報公表システム」(厚生労働省公式)でお住まいの地域の事業所を検索し、経営状況と公表情報を確認するところから始めてみてください。その後、気になった事業所に見学の申し込みをするのが、安心して利用先を選ぶ最初の一歩になります。
制度を正確に知っておくことは、自分に合った事業所を選ぶ力になります。不安なことがあれば一人で判断しようとせず、市区町村の障害福祉窓口や相談支援専門員にも気軽に声をかけてみてください。あなたの就労の場探しを、このブログも引き続き応援しています。

