就労継続支援B型事業所で受け取る工賃は、一般的な給与とは仕組みが異なります。「確定申告が必要なのか」「税金はかかるのか」と気になっている方も多いでしょう。結論から言えば、工賃だけで生活している方の大半は申告不要です。ただし、状況によっては申告が必要になるケースもあるため、自分の収入の種類と金額を一度整理しておくと安心できます。
この記事では、B型事業所の工賃が税務上どう扱われるか、確定申告が必要になる条件はどこか、そして実際に申告が必要になった場合にどう手続きを進めればよいかを順に説明します。また、令和7年分(2025年分)から適用される税制改正によって、申告不要となる上限金額が変わっている点についても整理します。
制度の仕組みを理解しておけば、毎年の判断がずっとスムーズになります。ぜひ参考にしてください。
B型事業所の工賃は税務上どう扱われるか
確定申告の要否を判断する前に、B型事業所の工賃がどのような所得に分類されるかを理解しておくと、制度の全体像がつかみやすくなります。給与との違いをはっきりさせることが、正確な判断の出発点です。
工賃は給与所得ではなく雑所得
就労継続支援B型事業所では、利用者と事業所は雇用契約を結びません。生産活動の収益から経費を差し引いた額が利用者に分配される仕組みであるため、法律上は「工賃」と呼ばれます。
雇用契約がないため、B型の工賃は「給与所得」には該当しません。税務上は「雑所得」として扱われることが一般的です。雑所得には源泉徴収も年末調整も行われないため、一定の条件を満たす場合に自分で確定申告を行う必要があります。
なお、就労継続支援A型は雇用契約に基づいて賃金が支払われるため給与所得となり、事業所側が源泉徴収や年末調整を行います。B型とは税務上の取り扱いが根本的に異なります。
源泉徴収票が発行されない理由
会社員やアルバイトが年末に受け取る源泉徴収票は、雇用者が給与から税金を天引きして国に納めた証明書です。B型の工賃は給与ではないため、事業所には源泉徴収の義務が生じません。
そのため、B型事業所からは原則として源泉徴収票が発行されません。これは違法でも不備でもなく、制度の仕組みによるものです。工賃の収支は利用者自身で把握しておく必要があります。
確定申告が必要になった場合、工賃の支払い記録(事業所から受け取る支払明細や工賃支払い一覧表など)を使って金額を確認します。不明な点は利用している事業所のスタッフに相談するとよいでしょう。
障害年金は所得の計算に含めない
障害年金を受給している方は、年金と工賃を合わせた金額が気になるかもしれません。ただし、障害年金は非課税所得であり、所得税・住民税の計算には含まれません。
確定申告の要否を判断するときは、工賃やアルバイト収入など課税対象の収入だけを集計します。障害年金の額がいくら高くても、それだけで課税や申告が必要になることはありません。
源泉徴収・年末調整は行われないため、自分で申告要否を判断する
障害年金は非課税所得のため、所得の計算には含めない
- B型の工賃は雇用契約に基づかないため、給与所得ではなく雑所得として扱われる
- B型事業所には源泉徴収義務がなく、源泉徴収票は原則発行されない
- 障害年金は非課税所得のため、申告の要否を判断するときの収入に含まれない
確定申告が必要かどうかの判断方法
工賃が雑所得である以上、確定申告の要否は自分で判断しなければなりません。ただし、大半の方は申告不要の範囲に収まります。ここでは、判断の基準と計算の流れを整理します。
工賃のみの場合は160万円が目安(令和7年分以降)
国税庁のタックスアンサー「No.1810 家内労働者等の必要経費の特例」によると、B型事業所の利用者は「家内労働者等」に準じた扱いを受け、実際の経費にかかわらず一定額を必要経費として計上できる特例が適用されます。
令和7年分(2025年分)の所得から、この特例の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。同時に基礎控除も95万円となるため、工賃のみの収入であれば、年間160万円以下の場合は所得税が課されず、確定申告も不要です(国税庁「No.1810」に基づく)。
なお、令和6年分(2024年分)以前の申告については、特例経費55万円+基礎控除48万円=103万円が申告不要の目安でした。申告する年分がどちらに当たるかを確認した上で判断してください。
他の収入があるときは計算が変わる
アルバイトなど給与収入がある場合、家内労働者等の必要経費の特例の適用に制限が生じます。給与収入が65万円以上あるときはこの特例が受けられないため、工賃収入を通常の雑所得として計算し直す必要があります。
給与収入が65万円未満の場合は、特例経費の上限額(令和7年分は65万円)から給与所得控除相当額を引いた残額と、実際の経費のうち高い方が必要経費になります。複数の収入がある場合は計算が複雑になるため、税務署の無料相談や国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用することをおすすめします。
申告が必要になる主なケース
以下のような状況では、申告の必要性が生じる場合があります。工賃以外に収入がある方は、年間の金額を整理しておくと判断しやすくなります。
| 状況 | ポイント |
|---|---|
| 工賃のみで年間160万円超(令和7年分以降) | 所得税がかかるため申告必要 |
| アルバイト・パートなど給与収入もある | 特例の適用制限あり。合算額と控除額で判断 |
| 医療費控除など還付を受けたい | 申告が必要(還付のために行う) |
| 副業や個人事業収入がある | 工賃と合わせて計算。特例の適用範囲を確認 |
- 令和7年分から申告不要の目安が160万円に引き上げられた(特例経費65万円+基礎控除95万円)
- 給与収入が65万円以上あると特例が適用されないため、別途計算が必要
- 医療費控除など還付目的の申告は、所得が少なくても行える
B型の工賃と扶養・住民税の関係
確定申告の要否だけでなく、家族の扶養に入っているかどうか、住民税はどうなるかも気になるところです。所得税と住民税では基準が異なる点にも注意が必要です。
扶養に入れるかどうかの目安
税務上の扶養(所得税法上の扶養親族)に入るためには、扶養される側の合計所得金額が一定以下である必要があります。令和7年分以降は、この合計所得金額の上限が95万円以下に変更されています(従来は48万円以下)。
家内労働者等の必要経費の特例を適用した後の合計所得金額で判断します。国税庁「No.1810」によると、工賃のみの収入が123万円以下の場合は扶養控除または配偶者控除の対象となります。ただし扶養者側の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除の適用外となります。詳細は所轄税務署または国税庁の相談窓口でご確認ください。
住民税の非課税ライン
住民税には所得税とは別の非課税基準があります。障害者手帳を持つ方は、所得金額が年135万円以下(年収ベースでは条件によって異なります)の場合、住民税が非課税となります。
住民税の非課税世帯は、障害福祉サービスの利用料負担が軽減されるなどの恩恵があります。確定申告を行った場合は住民税の申告を改めて行う必要はありませんが、確定申告をしない場合は別途、市区町村の窓口で住民税の申告が必要になることがあります。自分が申告が不要の範囲に収まるかどうかは、お住まいの市区町村窓口に確認するとよいでしょう。
令和7年税制改正で変わった点のまとめ
令和7年度税制改正(令和7年12月1日施行、令和7年分から適用)により、家内労働者等の必要経費の特例に関連する数字が以下のように変わっています。
| 項目 | 令和6年分まで | 令和7年分から |
|---|---|---|
| 特例経費の上限 | 55万円 | 65万円 |
| 基礎控除 | 48万円 | 95万円 |
| 申告不要の上限(工賃のみ) | 103万円 | 160万円 |
| 扶養控除等の対象(工賃のみ) | 103万円以下 | 123万円以下 |
申告する年分がどちらに当たるかによって、判断基準が大きく変わります。令和7年分(2025年1月〜12月の収入)は上記の新しい基準で判断してください。最新の詳細は国税庁「No.1810 家内労働者等の必要経費の特例」ページでご確認ください。
- 所得税の扶養判定は所得額で行い、障害年金は含めない
- 住民税の非課税ラインは所得税と基準が異なる
- 令和7年分から特例経費・基礎控除の金額が引き上げられた
確定申告が必要な場合の手続きの流れ
申告が必要と分かったら、手続きの流れをあらかじめ把握しておくと当日スムーズです。近年はオンラインでも手続きができるため、窓口に行かずに済む方法も選択肢に入ります。
申告に必要な書類の準備
B型の工賃について確定申告を行う場合、次のような書類が必要になります。事業所から工賃の支払い明細や支払い一覧表をもらっておくと、収入額の確認に役立ちます。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳・療育手帳など)を持っている方は、手帳のコピーまたはその写しを障害者控除の申告に使います。控除の種類と金額は障害の区分によって異なり、一般障害者は27万円、特別障害者は40万円(同居の場合は75万円)が所得から引かれます。
給与収入がある場合は、勤務先から受け取る源泉徴収票も必要です。医療費控除を申請する場合は領収書の整理も必要になります。
家内労働者等の必要経費の特例を適用する手順
この特例を適用するには、確定申告書に「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」を添付します。また、申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法27」と記載します。
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」(e-Tax対応)を使うと、画面の案内に沿って必要な欄を入力するだけで申告書が作成できます。特例の入力は、青色申告決算書や収支内訳書の必要経費の任意科目欄に「家内労働者等の特例」と入力し、特例適用後の金額を記入します。
相談できる窓口
申告の手続きに不安がある場合は、一人で判断せず窓口に相談するとよいでしょう。利用している事業所のスタッフに聞いてみるのも一つの方法です。
・税務署:無料の税務相談あり。確定申告期(例年2月中旬〜3月中旬)には特設窓口が設けられることも多い
・国税庁ウェブサイト:チャットボット相談・電話相談も利用できる
・市区町村の税務課:住民税に関する相談は地元の窓口へ
・利用中の事業所スタッフ:日常の状況を知っているため相談しやすい
- 工賃の支払い明細を事業所からもらっておくと収入額の確認が容易
- 特例を適用する場合は計算書の添付と申告書への記載が必要
- 税務署の無料相談や国税庁の作成コーナーを活用すると手続きが進めやすい
よくある疑問を整理する
工賃と確定申告にまつわる疑問は、複数の収入がある場合や家族との関係など多岐にわたります。特に気になりやすいポイントを整理します。
アルバイトと工賃を両方もらっている場合
B型事業所に通いながらアルバイトをしている場合は、給与収入と工賃収入の両方を合わせて考える必要があります。会社でアルバイトの年末調整をしていても、工賃による雑所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。
また、給与収入が65万円以上ある場合は家内労働者等の必要経費の特例が受けられないため、工賃収入については実際の必要経費のみで計算します。複数収入の組み合わせによって計算が変わるため、税務署窓口か国税庁の相談チャットを利用して確認すると安心です。
家族の扶養に入ったまま申告できる?
扶養に入っていても、申告が必要な場合は申告しなければなりません。申告を行うことで、還付や障害者控除の適用を受けられる場合もあります。
扶養から外れるかどうかは、申告の有無ではなく合計所得金額で判断されます。令和7年分以降は合計所得95万円以下が扶養控除等の基準ですが、家内労働者等の特例を適用した後の金額で判断するため、工賃のみの場合は123万円以下であれば扶養の対象となります。
過去の申告を忘れていた場合はどうする?
申告すべき年に申告を行っていなかった場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求や期限後申告が可能です。また、家内労働者等の必要経費の特例は、申告時に初めて適用した場合でも遡って請求できます。
過去の未申告や申告漏れが不安な方は、税務署に相談するのが最も確実です。加算税や延滞税が発生する場合もありますが、自主的に申告・修正する場合は軽減される制度もあります。
Q:工賃が月1〜2万円程度なら申告しなくていい?
A:年間で見て令和7年分以降は160万円以下(工賃のみの場合)であれば申告不要です。月1〜2万円であれば年間でも20万円程度のため、通常は申告不要です。他に収入がある場合は別途確認が必要です。
Q:住民税の申告は確定申告とは別に必要?
A:確定申告を行った場合は、住民税の申告を改めて行う必要はありません。確定申告をしない場合は、市区町村へ住民税の申告が必要になることがあります。
- アルバイトとの掛け持ちは申告が必要になる場合があるため、給与収入と工賃の合算額を確認する
- 扶養に入っていても申告は行える。扶養の判定は合計所得金額で決まる
- 過去の申告漏れは5年以内であれば修正が可能。税務署への相談を検討するとよい
まとめ
B型事業所の工賃は雑所得として扱われ、令和7年分以降は年間160万円以下(工賃のみの場合)であれば確定申告も所得税も不要です。多くの利用者の方にとっては、申告不要の範囲に収まるケースがほとんどです。
まず、工賃以外に収入(アルバイトなど)があるかどうかを確認するとよいでしょう。他に収入がある場合は、合算して申告が必要になるかどうか税務署か国税庁の相談窓口で確認するのがおすすめです。
制度は毎年少しずつ変わるため、心配なときは一人で抱え込まずに相談窓口を活用してください。正確に把握できれば、余計な心配なく工賃を受け取り続けることができます。

