就労継続支援B型の工賃は、事業所によって大きな差があります。厚生労働省が公表した「令和5年度工賃(賃金)の実績について」によると、全国平均工賃月額は23,053円です。一方で、月額5万円を超える事業所も実在し、同じ制度を利用していても受け取れる工賃は数倍以上の開きがある場合があります。
「どうすれば高い工賃の事業所を選べるのか」「そもそも工賃の仕組みはどうなっているのか」と気になっている方は多いでしょう。工賃は最低賃金法の適用外であるため事業所ごとに設定が異なり、作業内容や運営方針によって変わります。仕組みを正しく理解することが、事業所選びの第一歩です。
この記事では、厚生労働省の一次情報をもとに、工賃の計算方法・全国平均・都道府県別の実績データを整理したうえで、高い工賃を得やすい事業所の特徴と選び方のポイントをまとめます。利用を検討している方やすでに通われている方の参考になれば幸いです。
就労継続支援B型の工賃とは何か、まず確認しておきたい基本
工賃の仕組みは、一般的な給料とは異なる点がいくつかあります。利用前に基本的な考え方を押さえておくと、事業所選びで迷いにくくなります。
工賃は給料とどう違うのか
就労継続支援B型では、利用者と事業所のあいだに雇用契約を結びません。そのため、利用者が作業の対価として受け取るお金は「給料」ではなく「工賃」と呼ばれます。給料には最低賃金法が適用されますが、工賃には適用されません。
最低賃金を下回る工賃であっても法律違反にはなりませんが、事業所の指定要件として「利用者全体の平均工賃月額が3,000円以上」であることが障害者総合支援法の省令で定められています。事業所ごとに「工賃規程」が作成され、支払い方法(時給制・日給制・月給制)や支給日、算定基準が明記されています。
工賃規程は利用前に確認を求めることができます。見学や体験利用の際に「工賃規程を見せてもらえますか」と聞いてみると安心です。
工賃はどうやって決まるのか
工賃の原資は、事業所が生産活動(作業)で得た収益から生産活動に必要な経費を差し引いた金額です。残った金額を、利用者の作業時間・出来高・評価などに応じて分配します。
そのため、事業所が受注する仕事の種類や単価が工賃に直結します。下請け作業のように単価が低い仕事が中心の場合、どれだけ丁寧に作業しても工賃が上がりにくいという構造的な側面があります。施設外就労や自社製品の販売など収益性の高い活動を取り入れている事業所ほど、工賃水準が高くなる傾向があります。
支払い方式が時給制の場合、出勤日数や1日の作業時間が工賃額に反映されます。体調管理のために週2〜3日から通い始める場合は、最初の工賃は少額になることを念頭に置いておくとよいでしょう。
最低工賃と上限工賃について
平均工賃月額の下限は月3,000円と定められていますが、上限は制度上設けられていません。雇用契約を結ばないB型でも、事業所の取り組み次第で最低賃金に近い、あるいは超える水準の工賃を支払うことは可能です。
ただし、月額で著しく高い工賃が継続して支払われる場合は、年間工賃が一定額を超えると所得税の申告が必要になることがあります。年間工賃が103万円以下であれば、「家内労働者等の必要経費の特例」(国税庁が定める制度)により、原則として確定申告は不要です。詳細は国税庁の公式サイトでご確認ください。
最低賃金法の適用外ですが、平均工賃月額3,000円未満は事業所指定の要件を満たしません。
上限は設けられておらず、事業所の収益構造や取り組みによって大きく差が出ます。
- 工賃は雇用契約なしの生産活動への報酬であり、最低賃金法の対象外
- 事業所ごとに「工賃規程」があり、支払い方法・算定基準が明記されている
- 工賃の原資は生産活動収益から経費を差し引いた金額
- 利用前に工賃規程の確認を求めることができる
- 年間工賃103万円以下であれば原則として確定申告は不要(詳細は国税庁で確認)
就労継続支援B型の工賃最高額と全国平均を数字で整理する
「最高でどのくらいもらえるのか」は、多くの方が気になる点です。厚生労働省の一次情報をもとに、現状を整理します。
令和5年度の全国平均工賃月額は23,053円
厚生労働省が公表した「令和5年度工賃(賃金)の実績について」によると、全国の就労継続支援B型事業所(15,159か所)の平均工賃月額は月23,053円です。前年度(令和4年度)の17,031円と比べて大幅に増加しています。
ただし、この増加の主な要因は工賃そのものの実態変化だけではなく、令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で「平均工賃月額の算定方法」が変更されたことによります。従来は「工賃支払対象者数」を分母に使っていましたが、令和5年度からは「1日あたりの平均利用者数」を分母に用いる新しい計算方式に移行しました。この結果、利用日数が少ない方を多く受け入れる事業所でも平均工賃月額が低くなりにくくなっています。
数字の変化を見るときは、算定方式の変更を踏まえたうえで解釈することが大切です。令和4年度以前のデータと単純に比較すると実態と異なる印象を持ちやすくなります。
都道府県別の工賃格差はどのくらいあるか
令和5年度の都道府県別平均工賃月額を見ると、最も高いのは徳島県の29,312円、最も低いのは大阪府の18,176円です。上位には福井県(28,206円)、高知県(27,869円)、島根県(27,704円)が並びます。
都市圏と地方で傾向が分かれる背景には、受注できる作業の種類・単価の違いや、事業所の規模・運営方針の差があります。都市圏は事業所数が多いため競争があり、地方は特定の産業や自治体との連携によって工賃水準が高い場合もあります。
お住まいの都道府県の実績一覧は、各都道府県の障害福祉担当課や、WAM NET(独立行政法人福祉医療機構が運営)の事業所情報から確認できます。
個別事業所の工賃の最高水準はどのくらいか
全国平均が月23,053円である一方、事業所単位で見ると月5万円以上の工賃を支払う事業所も存在します。複数の民間調査サイトや自治体公表資料では、月10万円を超える工賃実績を持つ事業所の存在も確認されています。
一方で、月5,000円未満の事業所も依然として存在します。同じ「就労継続支援B型」という制度を利用していても、どの事業所を選ぶかによって受け取れる工賃には数十倍の差がある場合もあります。工賃額だけがすべてではありませんが、生活設計に関わる重要な情報です。見学・体験前に「前年度の平均工賃月額実績」を確認しておくとよいでしょう。
| 区分 | 工賃月額の目安 |
|---|---|
| 全国平均(令和5年度) | 23,053円 |
| 都道府県別最高(徳島県、令和5年度) | 29,312円 |
| 都道府県別最低(大阪府、令和5年度) | 18,176円 |
| 高工賃事業所の水準(一例) | 月5万円以上の事業所も存在 |
| 下限(指定要件) | 平均月3,000円以上 |
- 令和5年度の全国平均工賃月額は23,053円(厚生労働省公表)
- 算定方式変更の影響で前年比増加しているため、令和4年度以前との単純比較に注意
- 都道府県別では徳島県29,312円が最高、大阪府18,176円が最低(令和5年度)
- 事業所単位では月5万円以上の実績を持つ事業所も存在する
- 事業所選びでは前年度の平均工賃月額実績を確認することが有効
工賃が高い事業所にはどんな特徴があるのか
工賃水準は偶然ではなく、事業所の運営方針や仕事の種類によって大きく左右されます。ここでは高い工賃を実現している事業所に共通する特徴を整理します。
収益性の高い作業を受注している
工賃の原資は生産活動の収益から経費を差し引いた金額です。そのため、仕事の種類と単価が工賃水準に直接影響します。単価が低い下請け軽作業(封入・仕分け・検品など)が中心の事業所と、クリーニングや食品製造・カフェ運営・IT関連作業など付加価値の高い作業を主力とする事業所では、工賃水準に差が生まれやすくなります。
厚生労働省の調査(令和3年度)によると、作業種別の平均工賃はクリーニング作業が相対的に高く、封入・仕分けなどの軽作業は低い傾向があります。ただし、同じ軽作業でも歩合給制を採用し、作業スキルに応じて工賃が上がる仕組みを整えている事業所もあります。
見学の際には「主にどんな作業がありますか」「工賃の計算方法は時給制ですか、出来高制ですか」と具体的に確認するとよいでしょう。
施設外就労や自社商品の販売に取り組んでいる
施設外就労とは、事業所内ではなく企業や農場・店舗などの外部の職場で作業することです。外部での作業は単価が高く設定されやすいため、施設外就労を積極的に行っている事業所は工賃水準が高い傾向があります。
また、パン・焼き菓子・農産物・雑貨など自社で商品を製造・販売している事業所は、中間マージンが発生しないぶん収益を利用者の工賃に回しやすくなります。ネット販売やイベント出店で販路を広げている事業所では、売上に応じて工賃が変動する仕組みを取り入れている場合もあります。
施設外就労の有無は、見学・体験の際に確認できます。体調や障がいの状態によっては施設外就労が難しい場合もあるため、「参加は任意ですか」という点も一緒に確認しておくと安心です。
工賃向上計画を策定し、スタッフが積極的に取り組んでいる
就労継続支援B型の事業所には、工賃向上計画の作成と都道府県への報告が義務づけられています(障害者総合支援法施行規則に基づく)。計画を形式的に作成するだけの事業所もありますが、毎年具体的な目標を設定し、新規受注開拓・販路拡大・スキルアップ支援に取り組む事業所は工賃が伸びやすい傾向があります。
令和6年度の報酬改定では「目標工賃達成加算」が設けられ、工賃目標を達成した事業所は報酬が加算される仕組みになりました。工賃アップに経営上のメリットが生まれたことで、積極的に取り組む事業所が増えています。
見学や問い合わせの際に「昨年度の工賃実績はどのくらいでしたか」「今年の工賃目標はありますか」と聞いてみると、事業所の工賃への姿勢が分かりやすくなります。
1. 付加価値の高い作業や施設外就労を積極的に行っている
2. 自社商品・サービスの販売で独自の収益源を持っている
3. 工賃向上計画を毎年更新し、目標達成に向けて取り組んでいる
- 仕事の種類と単価が工賃水準に直結する
- 施設外就労や自社製品販売に取り組む事業所は工賃が高い傾向がある
- 工賃向上計画の策定は義務だが、目標への積極性は事業所によって異なる
- 令和6年度改定で「目標工賃達成加算」が新設され、工賃アップへの動機付けが強まった
- 見学時に前年度の工賃実績と今年度の目標を直接確認するとよい
工賃と生活費のバランスを考えるときに知っておきたいこと
工賃だけで生活を成り立たせることは、現状では多くの方にとって難しい場合があります。しかし、工賃以外に利用できる制度や支援を組み合わせることで、生活を安定させることは十分に現実的です。
工賃と利用料の収支関係について
就労継続支援B型を利用する際には、障害福祉サービスの利用料が発生します。利用料は原則1割負担ですが、世帯の収入状況に応じて上限が設けられています。生活保護受給世帯や市区町村民税非課税世帯(低所得)は利用料が0円です。市区町村民税課税世帯でも上限月9,300円、一般2(所得割16万円以上)でも月37,200円が上限となります。
厚生労働省の公表データによると、B型事業所の利用者の大多数は低所得・生活保護世帯に該当し、利用料がかからないケースが全体の約95%を占めると言われています。工賃がそのまま手元に残るケースが多いため、「工賃から利用料を引いたらマイナスになる」と過度に心配しなくても大丈夫な場合がほとんどです。
ただし、ご自身の世帯の課税状況によって利用料が発生するケースもあるため、利用前に市区町村の障害福祉窓口で確認しておくと安心です。
障害年金や生活保護との組み合わせ
就労継続支援B型で工賃を受け取りながら、障害基礎年金や障害厚生年金を同時に受給することは可能です。B型は雇用契約を結ばないため、就労による年金支給停止の対象にはなりません。障害基礎年金の令和6年度年金額は、1級が月額約68,000円、2級が月額約55,000円です(子の加算は別途。最新の金額は日本年金機構の公式サイトでご確認ください)。
生活保護を受給しながらB型事業所を利用することも認められています。工賃が収入として認定される場合は保護費との調整が発生しますが、就労のための活動として事業所への通所費用が保護費から支給される場合もあります。詳細はお住まいの福祉事務所に相談してみてください。
生活費の不足分を補う制度を活用する
工賃だけで生活費をまかなうことが難しい場合、グループホーム(共同生活援助)を利用することで家賃や生活費の一部を抑えられる場合があります。低所得世帯には家賃補助(月額上限1万円)が設けられており、自治体によって独自の上乗せ補助制度がある場合もあります。
また、精神疾患で通院が必要な方は「自立支援医療(精神通院医療)」を利用すると、通院医療費の自己負担が原則1割になります。工賃収入と各種制度を組み合わせて、生活全体のバランスを整えることが現実的な方法です。
- 利用料は世帯収入によって決まり、低所得・生活保護世帯は0円
- B型利用者の大多数は利用料がかからず、工賃をそのまま受け取れるケースが多い
- 障害年金との同時受給は可能。B型利用による年金支給停止の対象にならない
- 生活保護受給中のB型利用も認められており、通所費が保護費から支給される場合がある
- グループホームや自立支援医療など、工賃以外の制度を組み合わせて生活を安定させることができる
工賃だけで事業所を選ばないために確認したい4つの視点
工賃の高さは大切な指標ですが、それだけで事業所の良し悪しを判断するのは難しい面があります。自分の体調・障がいの状態・生活リズムとの相性も含めて総合的に考えるための視点を整理します。
支援内容と自分の状態が合っているか
就労継続支援B型には、「居場所・体調安定」を重視して軽めの作業やレクリエーションを中心に運営する事業所と、「工賃収入・スキルアップ」を重視して生産活動に力を入れる事業所があります。どちらが「良い」ということではなく、自分の今の状態や目標に合った方針の事業所を選ぶことが大切です。
体調が不安定で週2〜3日から少しずつ通いたい方には、無理のないペースで利用できる事業所が向いています。逆に「少しでも多く働いてスキルを身につけたい」と考えている方は、工賃向上に積極的でスキルアップの機会が多い事業所を選んだほうが長期的に見てよい場合があります。
見学・体験を通じて、スタッフの対応や他の利用者の雰囲気を実際に確認することが何より大切です。体験利用は通常、複数回・複数の事業所で行うことができます。
通える距離と送迎の有無を確認する
工賃が高くても、通所が難しい立地では継続が難しくなります。徒歩・バス・電車など公共交通機関での通いやすさを確認したうえで、送迎サービスの有無も聞いておくとよいでしょう。送迎を行っている事業所では、通所範囲が大幅に広がります。
また、通所経路に段差や混雑が多い場合、体調によっては通勤自体が負担になることがあります。見学の際に実際の経路を一度試してみると、通い続けられるかどうかをイメージしやすくなります。
工賃実績の開示状況と工賃規程の透明性
工賃実績の報告は事業所に義務づけられており、都道府県知事への報告内容はWAM NETなどで公表されています。事業所に直接「前年度の平均工賃月額実績はいくらですか」と質問したとき、明確に答えられる事業所は情報開示に積極的と判断できます。
工賃規程は利用前に確認を求めることができます。支払い方式(時給・日給・月給)・算定基準・支給日が明確に記載されているか確認しておくと、入所後のトラブルを防ぎやすくなります。
利用者の多様性と作業の幅
どのような障がいの方が多いか、どのような作業が用意されているかは、自分が働きやすいかどうかに大きく影響します。精神障がい・知的障がい・身体障がいなど、自分と近い状態の方が利用しているかどうかを確認することで、事業所の支援スタイルと自分の相性を判断しやすくなります。
また、体調によって作業量や内容を柔軟に調整できるかどうかも重要です。「今日は軽めにしたい」と伝えたときに対応してもらえる環境かどうかは、体験利用のときに実際に観察・確認しておくとよいでしょう。
- 「居場所重視型」と「工賃・スキルアップ重視型」は方針が異なり、自分の状態に合った選択が大切
- 通所距離・送迎の有無は継続率に直結する重要な確認事項
- 工賃実績の開示と工賃規程の透明性は事業所選びの判断材料になる
- WAMNET(障害福祉サービス事業所情報)で公開情報を事前に調べることができる
- 体験利用は複数の事業所で行い、雰囲気・作業・スタッフ対応を実際に比較するとよい
まとめ
就労継続支援B型の工賃は、令和5年度の全国平均が月23,053円で、事業所によっては月5万円以上の実績を持つところも存在します。工賃水準は事業所の収益構造・作業の種類・工賃向上への取り組みによって大きく異なるため、見学前に前年度の平均工賃月額実績を確認することが最初の一歩です。
まずWAM NET(https://www.wam.go.jp/sfkohyoout/)にアクセスして、お住まいの地域にある事業所の公開情報を調べてみましょう。気になる事業所が見つかったら、工賃実績・工賃規程・作業内容・送迎の有無などを確認しながら、体験利用を申し込む流れが現実的です。
工賃の金額は生活設計の大切な要素ですが、通いやすさや支援の内容と組み合わせて判断することで、長く安心して利用できる事業所に出会いやすくなります。あなたのペースに合った場所がきっと見つかります。焦らず、一歩ずつ確認していきましょう。


