賃金と工賃の違いとは?就労支援で知らないと損する仕組み

就労移行支援を利用しながら、賃金と工賃の仕組みを確認し将来の働き方を考える女性のイメージ

就労支援の現場で「賃金」と「工賃」という言葉を目にしたとき、どちらも働いた対価を指すように見えますが、制度上の意味は大きく異なります。この違いを理解しておくと、就労継続支援A型とB型の比較がぐっと整理しやすくなります。

賃金は雇用契約を結んで働く人に支払われるもので、最低賃金法が適用されます。一方の工賃は、雇用契約を結ばずに生産活動に参加した際に支払われる対価で、最低賃金法の枠外に置かれています。この一点だけでも、両者の性格の違いが見えてきます。

この記事では、賃金と工賃の定義から、それぞれの平均額、社会保険や税の扱い、そして事業所を選ぶ際に気をつけたい点までを順に整理します。制度を正確に把握したうえで、自分に合った働き方を検討するための参考にしてください。

賃金と工賃、根本的な違いはどこにある

賃金と工賃の違いを理解するには、まず「雇用契約の有無」という軸を押さえておく必要があります。就労支援の種別によって、利用者に適用されるルールがまったく異なります。

雇用契約の有無が分岐点

障害者総合支援法では、就労継続支援事業をA型とB型に分けています。A型は事業所と利用者の間に雇用契約が結ばれる形態で、B型は雇用契約を結ばずに生産活動を行う形態です。この雇用契約の有無が、賃金と工賃を分ける根拠になっています。

A型の利用者は、労働基準法および最低賃金法の適用を受ける「労働者」として位置づけられます。そのため、事業所は地域ごとの最低賃金以上を必ず支払わなければなりません。一方、B型の利用者は雇用契約を結ばないため、労働者には該当せず、最低賃金法の適用外となります。

工賃の法的な定義

工賃とは、雇用契約に基づかない形で生産活動を行った利用者に支払われる対価を指します。厚生労働省の整理では、工賃・賃金・給与・手当・賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのものを工賃(賃金)と総称しています。ただし、就労継続支援B型事業所においては、雇用関係がないため、実務上「工賃」という呼び方が定着しています。

B型事業所における工賃は、生産活動に係る事業の収入から、生産活動に必要な経費(工賃の支払い分を除く)を差し引いた額の範囲内で支払うことが原則とされています。つまり、工賃の原資は事業所の生産活動による売上であり、売上が低ければ支払える工賃も限られます。

賃金という言葉が使われる場面

「賃金」という言葉は、A型事業所の利用者に対して使われます。雇用契約があることで、通常の雇用と同様に給与明細の発行や所得税の源泉徴収が行われます。また、一定の条件を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険の対象にもなります。

B型事業所の工賃には、これらの仕組みが原則として適用されません。工賃収入のみであれば、雇用保険や厚生年金への加入義務は生じません。ただし、別途障害年金を受給している場合などは、収入の合計額によって扶養の範囲や各種手当の支給条件に影響が出ることがあります。

賃金と工賃の核心的な違い
・A型(雇用契約あり)→ 賃金/最低賃金法が適用される
・B型(雇用契約なし)→ 工賃/最低賃金法の適用外
・工賃の原資は生産活動の収益に限られる
  • 雇用契約の有無が賃金と工賃を分ける根拠になっている
  • A型利用者は労働基準法・最低賃金法の対象となる
  • B型の工賃は生産活動の収益から支払われる配分金の性格を持つ
  • 社会保険の扱いもA型とB型で異なる

平均額で見るA型の賃金とB型の工賃

制度上の違いを踏まえると、実際の金額にどれほどの差があるかが気になるところです。厚生労働省が公表している工賃・賃金実績をもとに、最新の数値を整理します。

B型の全国平均工賃月額

厚生労働省が公表した令和5年度の工賃実績によると、就労継続支援B型事業所の全国平均工賃月額は22,649円です(令和8年3月の修正後確定値)。前年度の令和4年度は17,031円でしたが、令和6年度の報酬改定に伴い平均工賃月額の算定方法が変更されたため、数値が大きく変化しています。

具体的には、従来は「工賃支払対象者数」を分母としていた算出方法が、「一日あたりの平均利用者数」を分母とする方式に変更されました。障害特性などにより利用頻度が少ない方を多く受け入れている事業所への配慮が背景にあります。そのため、実際の工賃水準が急に上がったわけではなく、計算方法の変更による影響が大部分を占めています。

A型の全国平均賃金月額

同じく厚生労働省の令和5年度実績によると、就労継続支援A型事業所の全国平均賃金月額は86,752円です。前年度の83,551円から3,201円増加しており、最低賃金の引き上げに連動して毎年少しずつ上昇する傾向が続いています。

B型の工賃22,649円と比較すると、A型の賃金86,752円は約4倍近い差があります。この差は、A型が最低賃金の保障を受けられるのに対し、B型はそうした法的保障がないことに起因しています。ただし、最低賃金は都道府県ごとに異なるため、A型の賃金額も地域によって幅があります。

B型の最低工賃の考え方

B型事業所では、指定基準により事業所全体の平均工賃月額が3,000円以上でなければならないとされています(「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」第201条第2項)。これは利用者一人ひとりに3,000円が保障されるという意味ではなく、事業所全体の平均が3,000円を上回ることが要件とされています。

なお、B型では工賃の額に応じて事業所が得られる障害福祉サービスの報酬単価が変動する仕組みがあります。厚生労働省は前年度の平均工賃月額に基づいて8段階の報酬区分を設けており、工賃の高い事業所ほど高い報酬単価を得られます。この仕組みが、事業所の工賃向上への取り組みを促す設計になっています。

区分雇用契約令和5年度全国平均(月額)最低賃金の適用
就労継続支援A型あり86,752円適用あり
就労継続支援B型なし22,649円適用なし
  • B型の全国平均工賃月額は令和5年度22,649円(算定方法の変更を考慮する必要がある)
  • A型の全国平均賃金月額は令和5年度86,752円で毎年増加傾向
  • 両者の差は主に雇用契約の有無と最低賃金法の適用範囲による
  • B型の工賃は事業所の生産活動収益が原資のため、事業所間でばらつきがある

社会保険・税金の扱いで見る賃金と工賃の差

賃金と工賃では、社会保険や税の扱いにも違いがあります。働き方を決める際に見落としやすい部分ですが、生活設計に影響する点でもあるため、基本的な仕組みを押さえておくとよいでしょう。

A型利用者の社会保険・雇用保険

A型事業所では雇用契約を結ぶため、所定の条件を満たす場合は雇用保険や社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となります。具体的には、週の所定労働時間が20時間以上であれば雇用保険の被保険者となります。社会保険については、週の所定労働時間や勤務日数が一定の基準を超える場合に加入義務が生じます。

雇用保険に加入していることで、万が一離職した際に失業等給付を受けられる可能性があります。また、育児休業や傷病手当金など、一般の雇用労働者と同様の給付制度の恩恵を受けられる場合があります。詳細な条件は厚生労働省または各都道府県の労働局に確認するとよいでしょう。

B型利用者の税と扶養の関係

就労支援事業所で賃金と工賃の違いについて説明を受けながら働き方を学ぶ利用者のイメージ

B型の工賃は雇用関係に基づかないため、雇用保険や厚生年金の加入義務は原則として生じません。工賃収入は雑所得として扱われますが、金額が小さい場合は確定申告が不要なケースも多いです。ただし、障害年金や他の収入と合算した場合に、扶養の範囲や各種手当の受給条件に影響することがあります。

たとえば、家族の扶養に入っている場合、工賃収入が一定額を超えると扶養から外れる可能性があります。具体的な金額の基準は、税法上の扶養と社会保険上の扶養で異なります。収入が増えた際には、担当のケースワーカーや税務署の相談窓口に確認しておくと安心です。

確定申告が必要になるケース

工賃収入のみの場合でも、収入の種類や金額によっては確定申告が必要になることがあります。たとえば、複数の事業所から工賃を受け取っている場合や、障害年金と合算した収入が一定額を超える場合などは注意が必要です。

確定申告の要否や手続きの流れについては、就労支援事業所のスタッフに相談するほか、毎年2〜3月に全国の税理士会が実施する無料税務相談を活用することもできます。自治体の窓口でも相談を受け付けているため、状況に応じて活用してください。

社会保険・税の違いを整理
・A型(雇用契約あり)→ 雇用保険・社会保険の加入義務が生じる場合がある
・B型(雇用契約なし)→ 雇用保険・厚生年金の加入義務は原則として生じない
・工賃収入は扶養の範囲や各種手当に影響する場合があるため、金額が変わる際は確認を
  • A型は雇用保険・社会保険の加入対象となる条件が一般雇用と同様に適用される
  • B型の工賃は雇用保険・厚生年金の対象外となるのが原則
  • 工賃収入でも扶養の条件に影響する場合があるため注意が必要
  • 確定申告が必要かどうかは収入の種類と合計額によって異なる

工賃向上のしくみと事業所を選ぶ際の視点

工賃の額は事業所ごとに大きく異なります。選択の判断材料として、工賃を決める仕組みと、厚生労働省が進める工賃向上への取り組みの概要を整理します。

工賃はどのように決まるか

B型事業所の工賃は、法律で一律に定められているものではなく、各事業所が独自の工賃規程に基づいて設定します。工賃の原資は生産活動による収益です。封入・袋詰めなどの受託軽作業、パン・焼き菓子などの自主製品販売、清掃・農作業・カフェ運営などのサービス業など、事業所によって取り組む業種はさまざまです。収益が高い事業所ほど、利用者に配分できる工賃も高くなる傾向があります。

工賃規程には、算定方法(時間給・出来高・評価制など)や支払い頻度、最低保障の考え方などを明記することが求められます。見学の際に工賃規程の内容や直近の平均工賃額を確認することが、事業所選びの重要な一歩になります。

国の工賃向上施策の概要

厚生労働省は「工賃向上計画支援事業」を推進しており、都道府県が地域の実情を踏まえた工賃向上計画を策定することを義務付けています。令和6年度からの計画期間は令和8年度までの3年間で、各事業所も自らの工賃向上計画を策定することが求められています。

また、B型事業所の基本報酬は前年度の平均工賃月額に基づいて8段階に区分されており、工賃が高い事業所ほど事業所が受け取れる報酬単価も高くなる設計です。工賃向上への取り組みが、事業所の経営改善とも連動する仕組みになっています。

事業所を比べるときに確認したい点

工賃の額は重要な指標ですが、それだけで事業所を選ぶと見落としが出ることがあります。工賃の金額と合わせて、作業内容や通所しやすさ、スタッフの支援体制、就労継続支援に留まるか将来の一般就労を目指すかという方向性の一致なども確認しておくとよいでしょう。

各事業所の工賃実績は、厚生労働省への報告に基づいて都道府県や事業所が公表しています。WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)の事業所検索でも施設ごとの情報を調べることができます。見学の際には、平均工賃の実績だけでなく、「どのような作業で工賃を得ているか」「自分の体調やペースに合った働き方ができるか」を具体的に確認することが大切です。

事業所を比べる際のチェックポイント
・直近の平均工賃月額(公表数値の確認)
・工賃の算定方法(時間給・出来高・評価制)
・主な作業内容と自分の体調・スキルとの一致
・就労継続か一般就労を目指すかの方向性の確認
  • 工賃は各事業所の生産活動の収益を原資とするため、業種や売上規模によって差が出る
  • 厚生労働省の工賃向上施策により、工賃実績が報酬に連動する設計になっている
  • 工賃の額だけでなく、作業内容や支援体制も含めて総合的に比較するとよい
  • WAM NETや都道府県の公表情報で事業所ごとの工賃実績を確認できる

就労移行支援と工賃・賃金の関係

就労移行支援は一般就労を目指す訓練の場であり、A型やB型とは制度上の位置づけが異なります。工賃や賃金との関係も整理しておくと、サービス選択の判断に役立ちます。

就労移行支援では工賃はほぼ発生しない

就労移行支援は、企業等への一般就労を希望する障害のある方に対して、就労に必要な知識や技能の習得、実習、職場探しなどを支援するサービスです。対象者は原則65歳未満で、一定期間(原則2年以内)の利用が前提となっています。

就労移行支援では、利用者は事業所と雇用契約を結んでいないため、作業が発生しても工賃が支払われないことが基本です。一部の事業所では、金銭管理の学習や就労体験を目的として工賃を支払う場合もありますが、制度上の義務ではなく、金額も少額にとどまります。厚生労働省の過去の調査では、工賃を支給している就労移行支援事業所の平均工賃は月額約18,628円とされていましたが、工賃のない事業所が大多数です。

移行支援からA型・B型への流れ

就労移行支援を利用した後、就職に至らなかった場合や体調面などの事情でさらなる支援が必要な場合は、就労継続支援A型またはB型への移行が選択肢になります。A型は雇用契約を結んで賃金を得ながら支援を受け、B型は雇用契約なしで工賃を受け取りながら生産活動に参加する形になります。

どのサービスが自分に合っているかは、体調・障害の特性・就労経験・将来の方向性によって異なります。市区町村の障害福祉窓口や相談支援専門員に相談しながら、利用するサービスを検討するとよいでしょう。

ミニQ&A

Q:就労移行支援に通いながらお金を稼ぐことはできますか?
A:就労移行支援では原則として工賃は支払われません。ただし、一部の事業所では生産活動に対して少額の工賃を支払うケースがあります。詳しくは利用を検討している事業所に直接確認してください。

Q:B型からA型に移ることはできますか?
A:可能です。B型利用者が体調や作業能力の向上に伴ってA型の利用を希望する場合、市区町村に改めて申請を行い、支給決定を受けることでA型への移行が認められます。相談支援専門員や市区町村の障害福祉窓口に相談してください。

  • 就労移行支援は一般就労を目指す訓練の場で、工賃の支払いは原則として行われない
  • 工賃を支払う就労移行支援事業所は一部に限られ、金額も少額となる傾向がある
  • 移行支援から就労継続支援A型・B型への移行は、市区町村への申請で対応できる
  • どのサービスが合うかは相談支援専門員や障害福祉窓口に相談して判断するとよい

まとめ

賃金と工賃の違いは、雇用契約の有無という一点に集約されます。A型は雇用契約があるため最低賃金法が適用され、B型は雇用契約なしの工賃で、最低賃金の保障はありません。令和5年度の全国平均は、A型が月額86,752円、B型が月額22,649円です(厚生労働省)。

事業所選びの第一歩として、見学の際に「平均工賃の実績」「工賃の算定方法」「主な作業内容」の3点を確認しておくことをおすすめします。都道府県の公表データやWAM NETの事業所検索も活用できます。

制度の仕組みを知ることは、自分に合った働き方を見つける力になります。気になることがあれば、市区町村の障害福祉窓口や相談支援専門員に遠慮なく相談してみてください。

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