障害者雇用で「手取り20万円」を達成できるのか、率直に知りたいと思っている方は少なくありません。統計データを見ると平均賃金が低く見えることがあり、不安を感じるのも自然なことです。ただ、その数字の読み方には重要な背景があります。
厚生労働省が2024年3月に公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」では、障害種別ごとの月額平均賃金が明らかになっています。数字だけを見て「自分には無理」と判断する前に、働き方・雇用形態・職種・障害の種別という4つの軸から実態を整理することが大切です。
この記事では、公的調査データをもとに障害者雇用の賃金の実態を整理し、手取り20万円に近づくための現実的な条件と方向性を解説します。就労移行支援の利用を検討中の方にも参考になる内容です。
障害者雇用の平均賃金と手取り20万円の関係
「平均賃金が低い」というイメージが広まっていますが、その数字には短時間勤務の方も多く含まれています。まず障害種別の平均値と、フルタイム勤務時の賃金水準を分けて確認しておくことが実態把握の第一歩です。
令和5年度調査が示す障害種別の平均賃金
厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、民間企業(従業員5人以上)に雇用されている障害者の月額平均賃金は障害種別で大きく異なります。
身体障害者は月額23万5千円、知的障害者は月額13万7千円、精神障害者は月額14万9千円、発達障害者は月額13万円となっています。身体障害者の平均は他の3種別より約10万円高い水準です。
身体障害者:約23万5千円
精神障害者:約14万9千円
知的障害者:約13万7千円
発達障害者:約13万円
※超過勤務手当を含む。短時間勤務の方も含む全体平均。
「全体平均」に短時間勤務が含まれる理由
障害者雇用では、体調管理や通院の必要性から週20〜30時間未満の短時間勤務を選ぶ方が一定数います。そのため全体平均は、フルタイム勤務者の賃金より低く算出される傾向があります。
同調査によると、週30時間以上勤務する精神障害者の月額賃金は約19万3千円です。知的障害者の週30時間以上勤務者の平均は約15万7千円となっています。労働時間が長くなるほど賃金も上がる傾向は、障害の種別を問わず共通しています。
手取り20万円に必要な額面の目安
額面(総支給額)から所得税・住民税・社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)が差し引かれます。目安として、月額給与から約20〜22%が控除されます。
手取りで20万円を確保するには、おおよそ額面25万〜26万円程度が必要です。年収換算するとボーナスなしで300万円前後、ボーナスがある場合はその分だけ月収が低くても手取り20万円ラインに届くケースがあります。
| 額面(月) | 手取り概算 |
|---|---|
| 20万円 | 約16万〜16万5千円 |
| 25万円 | 約19万5千〜20万円 |
| 27万円 | 約21万〜21万5千円 |
なお、障害者手帳を所持している場合、所得税の障害者控除(27万円、特別障害者は40万円)の適用により、手取りが若干増える場合があります。詳細は各自治体や税務署の窓口でご確認ください。
- 全体平均には短時間勤務者が含まれており、フルタイム勤務者の賃金とは異なる
- 障害種別では身体障害者の平均賃金が最も高く、月額23万5千円
- 手取り20万円には額面で約25万〜26万円程度が必要
- 障害者手帳による所得控除で手取りが増える場合がある
- 最新の控除額等は税務署または自治体窓口で確認するとよい
手取り20万円に近づける条件とは
手取り20万円の達成可能性は、職種・雇用形態・企業規模の組み合わせで大きく変わります。平均値は参考にしつつも、自分にとって現実的な条件を整理することが先決です。
フルタイム勤務と正規雇用が条件の基礎
週30時間以上のフルタイム勤務かつ正規雇用(正社員)であることが、手取り20万円に近づくための基本的な条件です。非正規雇用ではボーナスや手当がなく、年収ベースでの差が大きくなります。
令和5年度調査によると、身体障害者の正規雇用率は約52%です。知的障害者・精神障害者・発達障害者は非正規雇用の割合が高く、賃金水準が抑えられる傾向があります。正社員登用制度のある事業所では、実績を積むことで正規雇用に移行できる場合もあるため、求人票の雇用形態の確認が重要です。
企業規模と職種が賃金水準に影響する
企業規模が大きいほど賃金が高くなる傾向は、障害者雇用においても同様です。大企業や特例子会社(障害者雇用を促進するために親会社が設立した子会社)では、昇給制度や賞与制度が整備されているケースが多く、同じフルタイム勤務でも中小企業と比較して年収に差が出やすいです。
職種の観点では、事務職・IT関連職・専門技術職の求人で月給20万円以上の水準が見られます。一方、軽作業・清掃・一般サービス業は賃金水準が低い傾向にあります。IT系の就労移行支援事業所でプログラミングやデータ分析スキルを習得してから就職するルートをとる方もいます。
スキルと資格が長期的な賃金アップに直結
業務に直結する資格を取得することで、担当できる業務の範囲が広がり、昇給や役職変更につながることがあります。障害者雇用の場で評価されやすい資格には、日商簿記2・3級、MOS(Microsoft Office Specialist)、ITパスポート、基本情報技術者試験などがあります。
資格取得は就労移行支援事業所の訓練プログラムに含まれている場合があり、就職前のスキルアップ手段として活用できます。ただし、資格があれば必ず賃金が上がるわけではなく、職場での業務内容や評価基準との兼ね合いがあります。
- フルタイム勤務かつ正規雇用が賃金アップの基本条件
- 大企業・特例子会社は昇給・賞与制度が整備されている傾向がある
- IT職・専門技術職は月給20万円以上の求人が存在する
- 資格取得(簿記・MOS・ITパスポート等)が業務の幅を広げるきっかけになる
- 就労移行支援のスキルアップ訓練を活用する選択肢がある
障害種別ごとの現実的な賃金水準と注意点
障害の種別によって、職種・雇用形態・労働時間の傾向が異なります。自分の障害特性と照らし合わせながら現実的な見通しを持つことが、就職活動の方向性を定める上で大切です。
身体障害者の賃金水準と職種傾向
身体障害者は、4種別の中で最も高い月額平均賃金(23万5千円)を示しており、フルタイム・正規雇用の割合も高い傾向があります。同調査では、事務的職業に従事する割合が約26%と最多です。
内部障害(心臓・腎臓・呼吸機能等)の方は視覚・聴覚・肢体不自由と比べて担当できる業務範囲が広いため、事務職や専門職に就きやすく賃金水準が高くなる傾向があります。一方、障害の程度や通院頻度によっては短時間勤務を選ぶ場合もあり、個人差があります。
精神障害・発達障害者の賃金水準と向き合い方
精神障害者の月額平均賃金は14万9千円、発達障害者は13万円です。体調の波や通院の頻度から短時間勤務を選ぶ方が多く、これが全体平均を押し下げています。フルタイム勤務者に絞ると、精神障害者では月額約19万3千円まで上昇します。
発達障害の特性(集中力の高さ・パターン認識・細部への注意力)が活かせる職種として、データ入力・品質管理・プログラミング・経理補助などが挙げられることがあります。ただし、特定の職種が必ず合うわけではなく、自身の特性や体調と照らし合わせた職場選びが重要です。就労移行支援を通じてアセスメント(特性評価)を受けることで、向いている仕事の方向性を整理しやすくなります。
知的障害者の賃金水準と雇用形態

知的障害者の月額平均賃金は13万7千円で、時給制の割合が約72.5%と高い特徴があります。サービス業・運搬・清掃・包装等の職業に従事する割合が多く、フルタイムでの就労も一定数います。
週30時間以上勤務する知的障害者の月額平均は約15万7千円です。労働時間の確保と職場の安定した雇用環境が、収入水準を左右する主要な要因となります。就労定着支援(就職後の職場適応を支援する制度)を活用することで、長期的な就労継続を図ることが手取りの安定につながります。
身体障害者:約26万8千円
精神障害者:約19万3千円
知的障害者:約15万7千円
※フルタイム勤務で賃金水準が大幅に上昇することがわかります。
- 身体障害者はフルタイム・正規雇用率が高く賃金水準も高い
- 精神障害・発達障害者のフルタイム勤務者は月額約19万円台に達する場合がある
- 知的障害者は時給制が多く、勤務時間の確保が収入の鍵になる
- 自分の特性・体調に合った職種選びが長期就労の基礎になる
- 就労定着支援を活用することで収入の安定が図りやすくなる
収入を補う制度と組み合わせの考え方
障害者雇用で手取り20万円に届かない場合でも、公的な支援制度との組み合わせによって生活を安定させる方法があります。制度の種類と受給条件を整理しておくと、就職先を選ぶ際の判断材料になります。
障害年金との併給の仕組みと注意点
障害年金は、障害によって日常生活や就労に制限がある方を支援する公的年金制度で、就労と原則として併給できます。障害基礎年金(1・2級)は市区町村の窓口、障害厚生年金(1〜3級)は年金事務所が申請窓口です。
ただし、障害基礎年金1・2級は就労が困難なほどの障害状態が受給要件となっているため、フルタイムで働けている場合は見直しや停止の対象になる可能性があります。受給状況に変化がある場合は、日本年金機構の窓口または年金事務所に確認することが大切です。個別の受給可否・支給額については、最新情報を日本年金機構の公式サイトでご確認ください。
最低賃金減額特例制度と注意すべき点
最低賃金法には、労働能力が著しく低いと認められる場合に都道府県労働局長の許可を得て、法定最低賃金より低い賃金での雇用を認める「最低賃金の減額特例制度」があります。就労の機会を広げることを目的としていますが、適用される場合は求職者自身が条件を確認することが重要です。
なお、近年この許可制度を申請する企業は減少傾向にあり、多くの企業が最低賃金以上を支払っています。障害者雇用促進法では、障害者であることを理由に賃金や待遇で不当な差別的取扱いをすることを禁止しています。極端に低い賃金を提示された場合は、最低賃金法違反の可能性もあるため、ハローワークの専門援助部門や都道府県労働局に相談することをおすすめします。
就労移行支援の訓練期間と収入の考え方
就労移行支援は一般就労への準備を目的とした福祉サービスで、原則として利用中に賃金は発生しません。就労移行支援を利用しながら就職活動の準備を整え、一般企業への就職後に障害者雇用枠で収入を得るという流れが一般的です。
利用期間中の生活費については、障害年金・生活保護・家族の支援など個別の状況によって異なります。利用できる制度や給付については、居住地の市区町村福祉窓口または就労移行支援事業所のスタッフに相談することで整理しやすくなります。
障害年金:日本年金機構 公式サイトまたは各地の年金事務所
最低賃金・労働条件:各都道府県労働局または労働基準監督署
生活保護・福祉資金:市区町村の福祉事務所・福祉窓口
就労移行支援の利用:市区町村の障害福祉担当窓口
- 障害年金は就労と原則として併給できるが、状態によっては見直しがある
- 最低賃金の減額特例制度が適用される場合は条件確認が必要
- 就労移行支援の利用中は原則として賃金が発生しない
- 利用できる制度は市区町村の福祉窓口に相談して整理するとよい
- 収入の不足分には生活福祉資金貸付制度等の相談も選択肢になる
就職先を選ぶときに確認したい賃金の見極め方
求人票に記載された月給や時給だけでは実際の手取りが読みにくいことがあります。就職先を比較する際に確認すべき項目を整理しておくと、入職後のミスマッチを減らせます。
求人票で見るべき給与関連の項目
求人票に記載されている「月給〇〇万円」は額面(総支給額)であることが大半です。そこから交通費が含まれているかどうか、各種手当(住宅手当・通勤手当・皆勤手当等)が含まれているかを確認しておくと、実際の手取りの見当がつきやすくなります。
また、正社員・契約社員・パートなど雇用形態の違いがボーナスの有無に直結します。正社員はボーナス支給対象になるケースが多く、年収ベースでの差が大きくなります。見学や面接の機会に賃金の見直し時期・昇給実績についても確認しておくとよいでしょう。
特例子会社を候補に入れる理由
特例子会社とは、大企業が障害者雇用を促進するために設立した子会社で、障害者雇用促進法に基づく一定要件を満たすことで、親会社の雇用率に算入されます。障害のある社員が働きやすい環境・制度が整っているケースが多く、昇給・賞与・福利厚生が親会社水準に近い事業所もあります。
特例子会社の求人はハローワークの専門援助部門や障害者専門の転職支援サービスで探すことができます。WAM NET(ワムネット)の障害福祉サービス事業所検索や、各都道府県のハローワーク障害者窓口でも情報を得られます。
就労移行支援からの就職でどう変わるか
就労移行支援を通じて就職した場合、訓練で身につけたスキルや支援員との面接練習の成果が、より条件の良い事業所への入職につながることがあります。事業所によって就職先の傾向や平均賃金水準が異なるため、見学・体験利用の際に「過去の就職先の給与水準」を質問することも有効です。
就労移行支援事業所の選び方については、厚生労働省の障害者の就労支援対策のページや、各自治体の障害福祉担当窓口で情報を確認できます。
- 求人票の月給は額面であり、手当・ボーナスの有無を合わせて確認する
- 特例子会社は昇給・賞与・福利厚生が整っている傾向がある
- 就労移行支援事業所の見学時に就職先の賃金水準を質問するとよい
- ハローワークの専門援助部門や障害者専門転職支援を活用して求人を比較する
- 賃金の詳細はWAM NETや各自治体の障害福祉窓口でも確認できる
まとめ
障害者雇用で手取り20万円を達成するためには、フルタイム勤務・正規雇用・企業規模・職種という条件の組み合わせが重要です。全体の平均賃金だけを見て可能性を狭める必要はなく、週30時間以上勤務する層の賃金は平均より大幅に高くなることが厚生労働省の調査から示されています。
まず、自分の障害特性と体調に合った働き方の範囲を整理し、その中で正規雇用・スキルアップ・企業規模の観点から現実的な目標を設定することが第一歩です。就労移行支援事業所のスタッフや、ハローワークの専門援助部門に相談しながら就職先を比較する方法が、条件の見落としを減らす上で有効です。
手取り20万円という数字はゴールではなく、長く安定して働き続けるための環境選びの基準として活用してください。一歩ずつ、自分のペースで整理していきましょう。

