障害者雇用から一般雇用へ移れる?2つのルートとリスクの整理

一般雇用への転職ルートとリスク比較

障害者雇用から一般雇用へ移ることは、制度上できます。ただ、どのルートを選ぶかによって、働き方や受けられるサポートの範囲が大きく変わります。移行を考えているなら、まず2つのルートの違いと、それぞれに伴うリスクを把握しておくとよいでしょう。

障害者雇用は、障害者雇用促進法にもとづき、一定規模以上の企業に障害者を雇用する義務を課す仕組みです。2024年4月から民間企業の法定雇用率は2.5%となり、従業員40人以上の企業が対象となっています。この制度のもとで働いてきた方が、一般雇用枠へ転換したいと思うのは自然なことです。

この記事では、同じ会社での枠変更と転職という2つの移行ルート、それぞれの手順と注意点、合理的配慮の変化、開示の扱い、そして移行前に立ち止まって考えてほしいセーフティネットの問題まで整理します。移行を急ぐ前に、判断材料を一度確認しておきましょう。

障害者雇用から一般雇用へ移行できるか、まず結論を確認する

この章では、移行が可能かどうかという根本的な疑問に答えるとともに、どのような前提条件を整理しておく必要があるかを確認します。

制度上の移行は可能、ただし義務ではない

障害者雇用枠で働いている方が一般雇用枠に移ることは、制度上できます。障害者手帳を所持していても、一般雇用枠で働く権利は保障されており、どちらを選ぶかは本人の意思で決めることです。

障害者手帳を取得することが選択肢を狭めるという誤解がありますが、実際は逆で、障害者雇用枠と一般雇用枠の両方に応募できるため、働き方の選択肢が広がります。一般雇用枠への移行を義務付ける法律もなく、移行しないことへのペナルティもありません。

ただし、移行の可否は制度が保証するものではなく、企業の対応方針や求人の状況によります。同じ会社で枠変更ができるかどうかは会社ごとに異なり、転職による移行も採用選考の結果次第です。

移行を考えるきっかけになりやすい理由

一般雇用への移行を考える背景として多いのは、業務の幅を広げたいというキャリア上の動機です。障害者雇用枠では補助的な業務が中心になりやすく、企画・管理・リーダー職などに進みにくいと感じる場面があります。

また、症状や体調が安定し、「以前と同じような配慮がなくても働ける」と感じるようになった場合も、移行を検討する契機になります。精神障害の場合は特に、回復の経緯によって状況が変わりやすいです。

一方で、給与水準や雇用形態に不満があることも移行動機として挙がります。障害者雇用枠では有期雇用が多く、給与が低めに設定されているケースもあるためです。ただし、移行理由によって次のステップが変わるため、自分がなぜ移行したいのかを事前に整理しておくとよいでしょう。

障害者手帳を返還しなくても移行できる

一般雇用へ移行しても、障害者手帳を返還する必要はありません。手帳の保持は本人の権利であり、一般雇用枠で働きながら引き続き手帳を持つことができます。

手帳を返還するのは、障害の程度が改善され、更新時に等級に該当しなくなった場合などです。それ以外の理由で手帳を手放す法的義務はありません。一般雇用に移ったからといって後ろめたさを感じる必要はなく、選択の自由として認められています。

移行の基本ポイント
・障害者雇用から一般雇用への移行は制度上できる
・手帳を持ったまま一般雇用枠で働くことも可能
・移行を義務付ける法律も、禁止する法律もない
・企業の対応方針や採用選考の結果によって可否が決まる
  • 制度上、移行は本人の意思で選択できる
  • 手帳の返還は義務ではなく、移行後も保持できる
  • 移行理由を整理しておくと、次のステップが明確になる
  • 同じ会社での枠変更か転職かによって、手順が異なる

同じ会社で障害者雇用から一般雇用に切り替える方法

在籍中の会社で雇用枠の変更を希望する場合は、転職とは異なる手順が必要です。会社の方針や人事制度によって対応が分かれるため、まず社内での確認から始めることが大切です。

社内での枠変更は会社の対応方針次第

同じ会社で障害者雇用から一般雇用に切り替えることが制度上可能かどうかは、企業ごとの判断によります。制度として枠変更を認めている会社もあれば、採用枠を変えることを基本的に行っていない会社もあります。

まず人事担当部門または直属の上司に相談し、社内での枠変更が可能かどうかを確認するのが最初のステップです。可能かどうかを早めに確認しておくことで、方針が決まらないまま時間だけが経つことを避けられます。

枠変更の可否を確認する際は、自分がなぜ変更を希望するのかを整理した上で伝えると、話し合いがスムーズに進みやすくなります。

枠変更後に合理的配慮がなくなることへの注意

社内で障害者雇用から一般雇用に切り替えた場合、障害者雇用枠で受けていた合理的配慮は基本的になくなります。これは移行前に最も確認しておくべき点の一つです。

障害者雇用促進法では、障害者雇用枠の従業員に対して合理的配慮の提供を義務付けています。一方、一般雇用枠での合理的配慮については、障害者差別解消法および障害者雇用促進法の改正(2016年)により企業の義務とされましたが、内容や範囲は障害者雇用枠の場合と比べると限定的になる場合があります。

通院時間の確保、勤務時間の調整、業務内容の変更といった配慮が受けられなくなる可能性があります。枠変更に合わせて部署異動が発生するケースもあり、配慮を前提として配属が決まっていた場合は、異動後の業務負担が大きく変わることがあります。

一般雇用へ切り替えた後に体調が悪化した場合のリスク

一般雇用に切り替えた後、再び体調が悪化した場合のセーフティネットが限られることも知っておく必要があります。障害者雇用枠に戻れるかどうかは会社の判断次第であり、元の働き方に戻れるとは限りません。

障害者雇用で積み上げてきた実績や信頼関係が、枠変更後に一気に状況が変わることで活かしきれなくなるリスクもあります。体調管理の方法、通院の継続、症状悪化時の対処計画を事前に整理した上で、移行のタイミングを判断するとよいでしょう。

社内枠変更で確認すべき3つのこと
1. 会社として枠変更の制度があるか
2. 変更後に合理的配慮がどう変わるか
3. 体調が悪化した際に戻れる仕組みがあるか
  • 社内での枠変更は会社の対応方針によって可否が決まる
  • 枠変更後は合理的配慮が縮小・撤廃される可能性がある
  • 部署異動と重なる場合、業務環境が大きく変わることがある
  • 体調悪化時のセーフティネットが限られる点を事前に把握しておく

転職によって一般雇用に移行する手順と注意点

在籍中の会社での枠変更が難しい場合や、転職を通じてより広いキャリアを目指したい場合は、新しい職場で一般雇用枠に応募するという選択肢があります。手順と注意点を整理します。

転職活動は一般の求人に直接応募する

転職によって一般雇用枠で働きたい場合は、一般求人に応募します。障害者専用の求人に限定する必要はなく、一般の求人媒体やハローワークの一般求人を通じて活動できます。

ただし、就労移行支援事業所を利用している場合、基本的には一般雇用・障害者雇用の双方に対応した支援を受けられます。一般雇用への転職に特に力を入れている事業所もあるため、現在支援を受けている場合は担当者に相談しておくとよいでしょう。

一般の転職エージェントも利用できますが、障害に関して専門的な知識を持つ担当者が少ない場合があります。特性や体調管理の面から求人を選びたい場合は、支援機関を組み合わせて活用する方法が現実的です。

障害を開示するかどうかはオープン就労・クローズ就労で選べる

一般雇用枠での転職に際して、障害のことを企業に伝えるかどうかは本人が選択できます。障害を開示して働くオープン就労と、開示せずに働くクローズ就労の2つの方法があります。

厚生労働省の障害者雇用対策課によれば、就職・転職の際に障害があることを隠してはいけないという法律はなく、開示は義務ではありません。障害者手帳の保持をマイナンバーから企業が調べる仕組みは制度上ありません。

一方、年末調整で障害者控除を申告した場合は、人事・経理担当者に障害のあることが分かることがあります。クローズ就労を選ぶ場合は、障害者控除を利用したい場合は年末調整ではなく確定申告で対応するという方法があります。詳細は管轄の税務署でご確認ください。

クローズ就労のリスクも把握しておく

クローズ就労は選択肢の一つですが、リスクも伴います。障害を開示していないため、体調に合わせた配慮を企業に求めることが難しくなります。業務上のミスや体調悪化の際に、適切なサポートを受けにくいという状況が生じやすいです。

公共職業安定所の2017年度調査によると、クローズ就労した障害者の1年後の職場定着率は約30%にとどまっています。オープン就労で就労継続支援を受けた場合の定着率約70%と比べると大きな差があります。最新の統計については、厚生労働省の障害者の就労支援対策の状況ページでご確認ください。

就労形態特徴配慮の受けやすさ
障害者雇用枠(オープン)手帳を提示し障害者枠で就職最も受けやすい
一般雇用枠・オープン就労障害を開示し一般枠で就職配慮は受けられるが範囲は限定的
一般雇用枠・クローズ就労障害を開示せずに一般枠で就職原則として配慮を求めにくい
  • 転職での一般雇用移行は一般求人への応募が出発点
  • 就労移行支援事業所は一般雇用への転職サポートも行っている
  • オープン・クローズのどちらで就労するか事前に整理する
  • クローズ就労は定着率が低い傾向があるため慎重な判断が必要

一般雇用に移行した後の合理的配慮の変化を理解する

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一般雇用枠に移った後も、一定の合理的配慮を求める権利は残ります。ただし、障害者雇用枠と同等の配慮が自動的に続くわけではなく、制度上の根拠と現実的な対応の違いを整理しておく必要があります。

一般雇用枠でも合理的配慮は求められる

障害者雇用促進法第36条の2から4では、一般雇用を含む募集・採用・雇用継続のあらゆる場面で、障害者からの申し出があれば必要な配慮措置を講じることが事業主に義務付けられています。一般雇用枠だからといって、配慮を一切求められなくなるわけではありません。

オープン就労(障害を開示した上で一般雇用枠で働く)を選んだ場合は、通院時間の確保や勤務時間の調整といった配慮を企業に申し出ることができます。ただし「合理的」という表現が示すとおり、企業にとって過重な負担にならない範囲が条件です。

障害者雇用枠と一般雇用枠で配慮の受けやすさは異なる

法制度として合理的配慮の義務が定められていても、障害者雇用枠と一般雇用枠では実際に受けられる配慮の幅が異なることが多いです。障害者雇用枠では企業が受け入れる前提で配慮体制を整えているのに対し、一般雇用枠では障害者の応募や勤務が十分に想定されていない職場もあります。

また、ジョブコーチの派遣や就労移行支援機関との連携など、障害者雇用枠で利用できていた支援体制が一般雇用枠では受けにくくなることがあります。配慮の内容と範囲について、採用前に企業と具体的に確認しておくことが大切です。

配慮を受けるための申し出の方法

一般雇用枠で働く場合に配慮を求めるには、まず自分の障害特性と業務上の影響を具体的に整理した上で、上司や人事担当者に申し出ます。何が必要で、なぜ必要なのかを説明できると、企業側も対応を検討しやすくなります。

配慮の申し出は採用後にも行えますが、採用前の面接段階で確認しておくと、入社後のミスマッチを減らせます。「こういう配慮があれば業務に支障はない」という形で伝えると、企業に実現可能性を判断してもらいやすくなります。

ハローワークや地域障害者職業センターでは、就職後の職場定着に向けた相談も受け付けています。配慮交渉のやり方について専門的なアドバイスを得たい場合は、これらの窓口を活用するとよいでしょう。

一般雇用枠での合理的配慮のポイント
・法律上、一般雇用枠でも配慮を求める権利はある
・ただし、障害者雇用枠と同等の配慮が自動的に続くわけではない
・配慮の内容は採用前に企業と具体的に確認しておくと安心
  • 一般雇用枠でも合理的配慮を求める権利は障害者雇用促進法で定められている
  • 配慮の幅や体制は障害者雇用枠と比べて限定的になる場合がある
  • 支援機関(ハローワーク・地域障害者職業センター)への相談も活用できる
  • 採用前に配慮の内容を具体的に確認しておくとミスマッチを防ぎやすい

移行前に整理しておくべき判断のポイント

障害者雇用から一般雇用への移行は選択肢の一つですが、メリットとデメリットの両面を整理した上で判断することが大切です。この章では、移行を検討する際に特に確認しておくとよい点をまとめます。

移行のメリットを確認する

一般雇用に移行することの主なメリットとして、担当できる業務の範囲が広がることが挙げられます。企画・管理・リーダー職など、障害者雇用枠では関わりにくかった役割に挑戦しやすくなります。

給与や評価制度が一般社員と同じ基準になることで、キャリアアップを目指しやすくなる場合もあります。また、一般雇用枠で他の社員と同じ条件で働くことで、職場の一員として認められている感覚を得やすくなるという面もあります。

注意しておきたいリスクと落とし穴

一般雇用枠では、業務量・責任範囲・転勤や異動の対応など、障害者雇用枠と比べてより多くのことが求められます。障害のない社員と同等の働き方が基本となるため、特性によっては負担が増えることがあります。

特に注意が必要なのは、再び体調を崩した場合の選択肢が狭まることです。一般雇用枠に移ってしまうと、同じ職場で障害者雇用枠に戻れるとは限りません。キャリアも健康と同様に、一度失うと取り戻しにくい面があります。移行を急がず、体調が安定した期間が一定以上続いているかを確認した上で判断するとよいでしょう。

移行のタイミングを判断する目安

移行を検討してもよいタイミングの目安として、次の条件を確認するとよいでしょう。現在の職場で配慮なしでも業務をこなせている状態が継続していること、通院や体調管理のサイクルが安定していること、転職先の業務内容と自分の特性の相性を客観的に評価できていること、体調が悪化した際の対処計画が整っていることです。

就労移行支援事業所の担当者や、ハローワーク障害者専門窓口に相談しながら移行計画を立てると、客観的な視点を得やすくなります。

なお、移行を考えている段階では、支援機関に相談した上で「今の自分に合った働き方はどちらか」を検討することをお勧めします。移行が最善とは限らず、現在の障害者雇用枠のまま職場を変えることで解決できる課題もあります。

確認項目チェックポイント
体調の安定配慮なしで一定期間業務を継続できているか
通院・服薬の管理通院頻度や服薬が安定したルーティンになっているか
業務遂行能力一般雇用の業務範囲・責任に応えられると判断できるか
リスクへの備え体調悪化時の対処計画と相談先が決まっているか
  • 業務範囲の拡大やキャリアアップが移行のメリットになる
  • 体調悪化時に障害者雇用枠のセーフティネットが失われる点が最大のリスク
  • 移行のタイミングは体調の安定期間を確認した上で判断するとよい
  • 支援機関に相談しながら計画を立てると客観的な視点を得やすい

まとめ

障害者雇用から一般雇用への移行は制度上できます。同じ会社での枠変更と転職という2つのルートがあり、それぞれ手順と注意点が異なります。

まず確認しておきたいのは、移行後の合理的配慮がどう変わるかと、体調が悪化した際のセーフティネットです。就労移行支援事業所やハローワーク障害者専門窓口に相談しながら、自分の状況に合った移行計画を立ててみてください。

どちらの働き方が合っているかは、人によって異なります。一般雇用への移行が唯一の選択肢ではなく、現在の障害者雇用枠の中でキャリアを積む道もあります。この記事が、次のステップを判断するための参考になれば幸いです。

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