就労支援をオンラインで受けられるかどうか、気になっている方は少なくありません。通所が体力的に難しかったり、交通機関の利用に不安を感じたりする場合でも、自宅から訓練を受けられる仕組みが整ってきています。
就労移行支援には「在宅訓練」と呼ばれる制度があり、障害者総合支援法にもとづく要件を満たすことで、自宅にいながら通所とほぼ同内容の支援を受けることができます。ただし、すべての事業所が対応しているわけではなく、利用には市区町村の認可も必要です。
この記事では、就労支援のオンライン利用(在宅訓練)について、対象者の条件・訓練内容・利用までの手順・事業所の選び方まで、制度の根拠をもとに整理しています。これから検討を始めたい方の判断材料として役立てていただければ幸いです。
就労支援がオンラインで受けられる仕組みとは
就労移行支援における在宅訓練は、障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスの一環です。「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(厚生労働省通知)に定められた要件を満たすことで、自宅での訓練に対しても通所と同様に基本報酬が算定される仕組みになっています。
在宅訓練制度の成り立ちと普及の背景
在宅訓練は2015年(平成27年)度から就労移行支援事業に導入された制度です。当初は対象者が限定的でしたが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響をきっかけに要件が段階的に緩和されました。
PwCコンサルティング合同会社が実施した令和2年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業「障害者の多様な働き方と支援の実態に関する調査研究」によると、在宅での支援を実施している就労移行支援事業所は全体の約29.3〜29.4%にのぼっており、コロナ以降に取り組みを開始した事業所が多数を占めています。在宅支援に対応する事業所は現在も増加傾向にあります。
令和3年4月以降は「新たな生活様式の定着」を見据えた制度整備が進み、通所が難しい場合だけでなく、在宅での支援効果が期待できると市区町村が判断する場合にも利用が認められるようになっています。
制度の根拠となる法令・通知
在宅訓練の根拠となる主な法令・通知は次のとおりです。障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)にもとづく障害福祉サービスとして位置づけられており、厚生労働省通知(平成19年4月2日付障障発第0402001号)で要件が定められています。
令和7年3月31日付で厚生労働省が公表した「就労系障害福祉サービスにおける在宅支援の適切な実施について」においても、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市町村が判断した利用者を対象とすることが改めて整理されています。具体的な要件の内容については、次の章で詳しく確認します。
就労継続支援A型・B型における在宅の扱い
在宅訓練の制度は就労移行支援だけでなく、就労継続支援A型・B型にも適用されます。ただし、サービスの性格上、就労移行支援と就労継続支援では在宅利用の実態に違いがある場合があります。
特に就労継続支援B型では、在宅での生産活動(軽作業など)が認められる場合もありますが、活動内容が就労支援として適切かどうかについて自治体が厳格に審査する場合があります。東大阪市が公開している在宅利用に関する取扱案内には、内容が就労支援として適さない可能性がある活動については決定しない旨が明記されており、内容の具体性と支援効果が問われます。
いずれのサービスでも、市区町村の認可と事業所の運営規程への明記が必須条件となります。
就労継続支援B型では、在宅での生産活動の内容が適切かどうか自治体が審査します。
- 在宅訓練は2015年度からスタートし、コロナ以降に普及が加速しました
- 根拠は障害者総合支援法および厚生労働省通知に基づきます
- 就労移行支援・就労継続支援A型・B型のいずれにも適用されます
- 利用には市区町村の判断・認可が必要です
オンライン利用の対象者と要件
在宅訓練を利用できるかどうかは、利用者側の条件と事業所側の要件の両方で決まります。どちらも満たして初めて在宅訓練が成立するため、事前に双方を確認しておくとよいでしょう。
利用できる人の条件
厚生労働省の通知では、在宅でのサービス利用を希望する者であって、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市町村が判断した利用者を対象としています。
具体的には、次のようなケースで在宅での支援が検討されやすいとされています。対人不安やパニック障害などで外出そのものが困難な場合、医師から在宅での訓練が望ましいと判断されている場合、通所は難しくても在宅で就職に向けた支援を継続できると判断される場合などです。
以前は「通所が困難」であることが前提条件とされていましたが、現在は通所が苦手だったり人の多い環境が合わなかったりする方でも、在宅での支援効果が期待できると市区町村が判断すれば利用しやすくなっています。ただし、最終的な判断は居住する自治体が行います。
在宅訓練に対応していない可能性があるケース
一部の事業所では、在宅訓練の利用に際して独自の条件を設けている場合があります。たとえば「月1回の通所が可能な方」を要件としているケースや、服薬管理が難しい方・感情コントロールに課題がある方については在宅での継続的な支援が難しいと判断される場合があります。
また、在宅訓練に対応しているかどうかは事業所によって異なります。事業所全体の約29〜30%しか在宅対応していないため、希望する場合は事前に対応可否を確認することが大切です。パソコンやインターネット環境を自分で用意する必要があるかどうかも、事業所ごとに違います。
事業所側が満たすべき7つの要件
厚生労働省通知に基づき、事業所が在宅訓練を実施するには以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 番号 | 要件の概要 |
|---|---|
| ア | 常に訓練・作業メニューが確保されていること |
| イ | 在宅利用者からの相談・連絡等に随時対応できる体制があること |
| ウ | 必要に応じた訪問や連絡等の支援体制があること |
| エ | 緊急時の対応ができること |
| オ | 週1回は評価等(訪問・通所・ICT活用のいずれか)を行うこと |
| カ | 月1回は事業所内での達成度評価等を行うこと(職員の訪問または利用者の通所) |
| キ | 運営規程に在宅での訓練・支援内容を明記していること |
- 利用の可否は市区町村が最終的に判断します
- 事業所に在宅訓練の要件(7つ)が整っているか確認が必要です
- 月1回程度の通所または職員訪問が求められる場合があります
- 在宅で利用できる事業所は全体の約3割程度です
在宅訓練で受けられる支援内容
在宅訓練の内容は、通所での支援と大きく変わりません。ただし、オンライン環境を通じて行われるため、コミュニケーションの方法や訓練の進め方には工夫が必要です。支援内容を把握しておくことで、自分にとって必要なプログラムがあるかどうかを判断しやすくなります。
訓練内容の種類と特徴
在宅で実施される訓練には、主に次のようなものがあります。生活習慣の改善や体調管理のサポート、自己理解・障害特性への気づきを深めるプログラム、コミュニケーション能力の向上訓練、PCスキル(Word・Excelなど)の習得、ビジネスマナー講座などが代表的です。
在宅ワークやリモート就労を目指す方に向けては、オンライン会議ツール(ZoomやMeetなど)の操作練習、チャットツールを使った報連相の訓練、テレワーク環境でのコミュニケーションスキルを重点的に取り上げる事業所もあります。訓練を通じて、実際の在宅就労と近い環境を疑似体験できる点が特徴です。
就職活動のサポートも在宅で受けられる
訓練だけでなく、就職活動に関する支援もオンラインで提供されます。自己分析・自己PR作成の支援、履歴書の書き方指導、オンライン模擬面接、求人票の提案など、通所と同等の就活サポートを在宅で受けられる事業所が増えています。
企業見学や職場実習の一部についても、オンラインで対応している事業所があります。なお、就労移行支援事業所が直接職業紹介を行うことは制度上できないため、ハローワークや障害者就業・生活支援センター、障害者職業センターなどと連携して就職先を探す流れは、通所の場合と同様です。
定着支援もオンラインで継続できる
就職が決まった後の「定着支援」もオンラインで継続できます。定期的な面談を通じて就業状況を確認し、職場での困りごとに対してスタッフが助言・調整する支援です。在宅就労で働き始めた場合でも、事業所と連絡を取り続けることができるため、就職後の不安を軽減しやすい環境になっています。
在宅ワークを目指す方には、オンライン会議ツールの操作やチャット報連相の訓練が特に役立ちます。
就職活動のサポートも在宅で受けられますが、職業紹介は事業所の機能外のため、ハローワーク等との連携が必要です。
- 生活習慣・自己理解・コミュニケーション・PCスキルが主な訓練内容です
- オンライン会議ツールやチャット操作の訓練は在宅就労の準備として直結します
- 履歴書添削・模擬面接・求人提案など就活支援も在宅で受けられます
- 就職後の定着支援もオンラインで継続できます
- 職業紹介はハローワーク等との連携で行われます
在宅訓練を利用するための手順
在宅訓練の利用開始までには、通所利用とほぼ同じ手順をたどります。ただし、在宅での利用には市区町村への申請と認可が別途必要になるため、その点を含めて流れを把握しておくとスムーズです。
事業所への問い合わせから体験まで
まず、在宅訓練に対応している就労移行支援事業所に問い合わせます。問い合わせはメールや電話のほか、ZoomなどのオンラインツールでのWEB相談を受け付けている事業所も多くあります。
問い合わせ後は見学・体験利用に進みます。見学もオンラインで参加できる事業所があります。体験利用中は実際のプログラムに参加し、スタッフとの相性や支援内容を確認できます。自分に合う事業所かどうかを見極めるうえで、体験は重要なステップです。
受給者証の取得と市区町村への申請
就労移行支援は、居住する市区町村から「障害福祉サービス受給者証」の発行を受けることが利用の前提です。まだ受給者証を持っていない場合は、住所地の市区町村の障害福祉担当窓口で申請手続きを行います。手帳がない場合でも、医師の診断書で申請できる場合があります。
在宅での利用を希望する場合は、通常の受給者証申請に加えて、在宅利用のための申立書等の書類提出が必要です(自治体によって手続き書類が異なる場合があります)。事業所のスタッフが書類作成をサポートしてくれる場合が多いため、不安な点は問い合わせ時に確認しておくとよいでしょう。
訓練開始後の流れとスケジュールの目安
受給者証が発行されると、正式な利用開始となります。在宅訓練の場合、開始当初は体調に合わせて週2日・半日程度から始め、徐々に日数・時間数を増やしていくことが多いです。将来的な就労に向けて、週4〜5日・1日6〜7時間を目標に訓練を進めていく流れが一般的です。
在宅訓練中は、週1回の評価・面談(職員の訪問、利用者の通所、またはICT機器の活用によるいずれか)と、月1回程度の通所または職員訪問が制度上必要です。月に一度は事業所に出向くことが求められる場合があるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
書類作成は事業所スタッフがサポートしてくれることが多いため、一人で抱え込まずに相談しましょう。
- 問い合わせ→見学・体験→受給者証申請→訓練開始の流れが基本です
- 在宅利用には市区町村への申立書等の提出が必要な場合があります
- 週1回の評価と月1回の通所または訪問が制度上必要です
- 訓練は短時間・少日数から始めて徐々に増やすのが一般的です
在宅対応の事業所を選ぶときのポイント
在宅訓練に対応している事業所は全体の約3割程度にとどまります。探し方と選び方のポイントを押さえることで、自分の状況に合った事業所を見つけやすくなります。
在宅対応の確認方法
事業所を探す際はWAM NET(福祉医療機構が運営する障害福祉サービス事業所検索サービス)から全国の事業所を検索できます。ただし、在宅訓練の対応可否はWAM NETだけでは確認できない場合があるため、各事業所の公式ウェブサイトやサービス案内を直接確認することが必要です。
事業所のウェブサイトに「在宅訓練対応」「オンライン利用可」などの記載がある場合は、実際の支援内容や月1回の通所条件の有無についても問い合わせのうえ確認しておくとよいでしょう。在宅訓練の実績(利用者数・就労実績など)が公開されているかどうかも、選ぶ際の参考になります。
在宅就労を目指す場合に確認したい点
在宅での就職(テレワーク・在宅勤務)を目指している場合は、その事業所が在宅就労に向けた訓練メニューを用意しているかどうかを確認することが大切です。オンライン会議ツールやチャットの操作訓練が含まれているか、在宅就労の就職実績があるかといった点が判断材料になります。
PC・Wi-Fiなどの機材の貸し出し有無も確認しておくとよいでしょう。自分でインターネット環境を用意できない場合でも、PC・Wi-Fiを無料で貸し出している事業所が複数あります。機材のサポートを確認することで、費用面の不安を事前に減らすことができます。
支援の手厚さと相性を見極める
スタッフの対応体制(チャットや電話での相談に応じてもらえるか)や、個別支援計画の作成・更新頻度も確認ポイントです。在宅では孤立しやすい環境になりがちなため、定期的な面談や緊急時の連絡体制が整っているかどうかは特に重要です。
精神障害・発達障害に特化した支援を行っている事業所や、認知行動療法などの心理的サポートを取り入れている事業所もあります。自分の障害特性や課題に合ったプログラムが用意されているかを体験利用で確かめてから利用開始を決めるのが安心です。
ミニQ&A
Q. パソコンを持っていなくても在宅訓練を受けられますか?
A. PC・Wi-Fiを無料で貸し出している事業所があります。対応可否は事業所によって異なるため、問い合わせ時に確認するとよいでしょう。
Q. 在宅訓練から通所に切り替えることはできますか?
A. 可能です。体調が回復してきた際に通所型に移行したり、在宅と通所を組み合わせて利用したりする方もいます。詳細は事業所と相談のうえ決めることができます。
- WAM NETや公式サイトで在宅対応可否を確認しましょう
- 在宅就労を目指す場合はオンライン会議・チャット訓練の有無を確認するとよいでしょう
- PC・Wi-Fiの貸し出し対応を事前に確認しておくと安心です
- 体験利用でスタッフとの相性や支援内容を実際に確かめましょう
まとめ
就労支援のオンライン利用(在宅訓練)は、障害者総合支援法にもとづく制度として正式に認められており、市区町村の認可と対応事業所の選定を経ることで利用できます。
まずは在宅訓練に対応している事業所を探し、オンラインや電話で問い合わせてみることが第一歩です。WAM NETや各事業所の公式サイトから情報を集め、体験利用を活用して自分に合う事業所かどうかを確かめましょう。
通所が難しいと感じている方も、在宅という選択肢を知るだけで、踏み出しやすくなることがあります。制度の詳細や個別の状況については、居住地の市区町村の障害福祉担当窓口や、相談支援事業所にも相談できます。焦らず自分のペースで検討していただければと思います。

