就労継続支援A型事業所が「助成金を減らされた」というニュースを目にしたことがある方は少なくないでしょう。しかし、その仕組みを正確に理解している利用者は多くありません。
A型事業所に関わるお金の仕組みは複雑で、「助成金」「給付金」「補助金」という言葉が混在して使われています。2024年4月の報酬改定は、この仕組みに大きく手を入れたもので、全国で多くの事業所が閉鎖するきっかけになりました。
この記事では、A型事業所の助成金・給付金が減額される仕組みと、2024年の制度変更の内容、そして利用者として知っておくべきポイントを制度の側面から整理します。
A型事業所の「助成金が減る」とはどういう仕組みか
A型事業所への公的なお金がどのように流れ、何が変わると減るのかを理解するには、まずお金の種類と経路を整理する必要があります。「助成金が削られた」という表現は正確ではないことも多く、何がどう変わったかを把握するところから始めるとよいでしょう。
給付金と助成金、二つのお金の違い
A型事業所が受け取るお金には、大きく分けて「給付金(訓練等給付費)」と「助成金」の二種類があります。
給付金は、障害福祉サービスの提供に対して国と市町村が支払う報酬で、事業所の主な収益源です。利用者数や1日の平均労働時間、生産活動の収支状況などをもとに算定されます。助成金は、これとは別に、雇用支援の観点から主に厚生労働省が管轄して支給されるものです。代表的なのが特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)で、障がいのある方を雇い入れた事業所に対して一定期間支給されます。
ニュースや口コミで「A型への補助金が削られた」と言われるとき、多くの場合は後者の助成金ではなく、前者の「給付金(基本報酬)」が実質的に減額されたことを指しています。この二つを混同すると、何が問題なのかが見えにくくなります。
ニュースで話題になる「削減」は主に給付金(基本報酬)の実質的な減少を指します。
助成金は雇用主への支給であり、利用者への賃金とは直接連動しません。
- 給付金:事業所がサービスを提供することへの対価として国・市町村が支払う報酬
- 助成金:雇用推進のために厚生労働省等が管轄する制度(例:特定求職者雇用開発助成金)
- 補助金:地方自治体などが審査を経て支給する支援金(経産省管轄が多い)
- いずれも事業所側への支給であり、利用者個人への直接給付とは異なる
- 基本報酬は利用者への賃金に間接的に影響する
スコア方式と基本報酬の関係
A型事業所の給付金のうち基本報酬は、令和3年度(2021年度)の報酬改定から「スコア方式」で決まる仕組みになっています。スコア方式とは、事業所の運営状況を複数の評価項目で数値化し、その合計点に応じて1日あたりの報酬単位数が決まる制度です。
評価項目には労働時間、生産活動の収支状況、多様な働き方の実現、支援力向上の取り組みなどが含まれます。スコアが高ければ報酬単価が高く、低ければ低くなる仕組みです。事業所はこのスコアを毎年算定し直し、都道府県等に提出・公表する義務を負っています。
基本報酬が下がると事業所の収入が減り、運営費や人件費の確保が難しくなります。結果として、経営が厳しくなった事業所が閉鎖に至るというつながりがあります。
生産活動収支が赤字だと何が起きるか
A型事業所では、利用者が行う生産活動(軽作業、データ入力、飲食サービスなど)によって得られる収益が、利用者に支払う賃金の総額以上でなければならないと、障害者総合支援法の指定基準で定められています。この差額を「生産活動収支」といいます。
生産活動収支が赤字、つまり生産活動の売上よりも賃金の支払い総額が多い状態が続くと、スコアに大幅なマイナスがつき、基本報酬の単価が下がります。単価が下がると収入がさらに減り、経営がより苦しくなるという負の循環に陥りやすい構造です。厚生労働省の資料では、令和6年度の報酬改定以前の時点で、全国のA型事業所のうち約50.7%の事業所が指定基準を満たしていない状態、つまり生産活動収支が賃金総額を下回っていたと報告されています(厚生労働省「就労継続支援A型の状況について」社会保障審議会障害者部会第143回資料より)。
2024年報酬改定で何が変わったか
令和6年(2024年)4月1日、障害福祉サービス等の報酬が改定されました。A型事業所に関わる変更は多岐にわたりますが、利用者への影響という観点では、スコア方式の厳格化が最大のポイントです。改定前後を比較することで、何がどう変わったかがわかりやすくなります。
改定前と改定後のスコア方式の違い
厚生労働省が令和6年2月に公表した「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」によれば、スコア方式の評価項目と得点配分は次のように変更されました。
| 評価項目 | 改定前のスコア | 改定後のスコア |
|---|---|---|
| 労働時間 | 5〜80点 | 5〜90点 |
| 生産活動 | 5〜40点 | -20〜60点 |
| 多様な働き方 | 0〜35点 | 0〜15点 |
| 支援力向上 | 0〜35点 | 0〜15点 |
| 地域連携活動 | 0〜10点 | 0〜10点 |
| 経営改善計画(新設) | — | -50〜0点 |
| 利用者の知識・能力向上(新設) | — | 0〜10点 |
最大の変化は「生産活動」の項目です。改定前は最低でも5点が保障される加点のみの仕組みでしたが、改定後は生産活動収支が赤字の場合にマイナス点がつく仕組みになりました。過去3年間の生産活動収支が継続して赤字だと最大-20点の減点となります。
また、「多様な働き方」「支援力向上」の配点が35点から15点へと縮小された一方で、「労働時間」と「生産活動」の配点が引き上げられており、実績に基づく評価への比重が高まっています。
経営改善計画の未提出で大幅減点という新ルール
今回の改定で新設された「経営改善計画」の項目は、加点ではなく減点を防ぐための仕組みです。生産活動収支が赤字の事業所は経営改善計画書を作成して自治体へ提出する義務がありますが、期限内に未提出の場合はスコアがいきなり-50点となります。
さらに、複数年にわたって経営改善計画を提出しているにもかかわらず、指定基準を満たせていない事業所に対しても、減点が適用される仕組みです。単に書類を出すだけでなく、実際に改善の実績を示すことが求められています。
この-50点という数字は非常に大きく、他の項目でいくら加点を積み上げても取り返しにくい水準です。慢性的な赤字を抱えながら計画書も未提出の事業所には、報酬が大幅に下がる厳しい影響が出ています。
生産活動が3期連続赤字 → 生産活動項目でさらに最大-20点
基本報酬が下がる → 経営難 → 閉鎖リスクという流れが生じます。
- スコア方式の「生産活動」項目に初めて減点が導入された
- 経営改善計画の未提出で-50点という新たな大幅減算が新設された
- 労働時間の評価が強化され、より長い時間働ける環境が評価される
- 利用者のスキルアップ支援が新たに評価項目として加わった
- 改定は2024年4月1日施行(処遇改善加算一本化は同年6月施行)
全国で閉鎖が相次いだ背景

2024年3月から7月の5か月間で、全国329か所のA型事業所が閉鎖し、約5,000人が解雇・退職を余儀なくされました(共同通信による全国自治体調査、厚生労働省資料より)。このうち厚労省の集計では、解雇された4,279人の8月末時点の状況として、再就職した方が936人、B型事業所への移行(予定を含む)が2,073人と報告されています。
閉鎖が集中した事業所の多くは、設立から年数が浅い小規模な事業所や、内職・低単価の軽作業に収益を依存していた事業所でした。生産活動で十分な売上を確保できないまま、改定によってスコアが大幅に下がり、基本報酬が連動して減少したことが主要因です。
厚生労働省は2024年10月28日付けで自治体への事務連絡を出し、廃止された事業所の利用者に対して必要なサービスが継続されるよう調整を求めています。また、廃止届のあった事業所名をハローワーク等と共有し、再就職支援が行われる体制も整備されています。
利用者への影響と閉鎖のサイン
報酬改定の影響は事業所の経営に及ぶものですが、利用者の働く場や賃金にも間接的につながります。「自分の通っている事業所は大丈夫か」と不安に思う方もいるでしょう。ここでは、利用者の立場から知っておきたいポイントを整理します。
閉鎖になった場合に受けられる支援
通っているA型事業所が廃止・閉鎖になった場合、事業者には障害者総合支援法第43条第4項に基づき、利用者が引き続き必要なサービスを受けられるよう関係機関と連絡調整を行う義務があります。何の連絡もなく突然打ち切ることは制度上認められておらず、自治体も調整に関与します。
また、雇用保険の加入要件を満たしている場合は、退職後に失業給付を受けられます。ハローワークでは、障がいのある方を対象とした個別の就職相談・職業紹介も行っており、閉鎖を受けて離職した方への専門的なサポートが2024年3月以降強化されています。次の事業所を探す際には、市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援専門員に早めに相談するとよいでしょう。
B型事業所や就労移行支援への移行も選択肢の一つです。B型は雇用契約を結ばないため最低賃金の保障はありませんが、自分のペースで働ける環境として選ぶ方も多くいます。
事業所選びで確認しておきたいポイント
A型事業所を新たに検討する方にとっても、2024年以降は選び方の基準が変わっています。事業所の安定性を確認するうえで参考になる情報は、WAM NET(障害福祉サービス情報公表)に公表されており、スコアや平均賃金などを確認できます。
確認のポイントとして、まず生産活動の内容が明確かどうかを見るとよいでしょう。どのような仕事を受注しているか、収益構造がわかりやすく説明されている事業所は、経営の透明性が高いと言えます。
見学の際は、利用者の労働時間、賃金の水準、最近の利用者数の傾向などを確認しておくと安心です。「空きがあるうちに早く決めて」と急かすような説明がある場合は、慎重に検討するとよいでしょう。
・WAM NETの情報公表でスコアや平均賃金を確認する
・生産活動の内容(どんな仕事で収益を出しているか)を確認する
・見学時に利用者の平均労働時間と直近の利用者数を聞く
- WAM NET(wam.go.jp)でスコアや平均賃金の公表状況を調べられる
- 生産活動の内容が具体的に説明されているかを確認する
- 見学・体験通所を通じて実際の就労環境を確かめる
- 雇用契約書の内容(労働時間・賃金)を契約前に確認する
- 不明点は相談支援専門員や市区町村の福祉担当に相談する
給付金・助成金の話が出たときの見分け方
事業所の説明会や見学時に「助成金を活用しているので安心」「補助金がもらえる」といった説明が出ることがあります。助成金の活用自体は適切な制度利用であり問題ありませんが、助成金に過度に依存した経営は2024年以降の改定で不安定になりやすい側面があります。
特定求職者雇用開発助成金は最長2年間の時限的な支給であり、その後は生産活動の収益で経営を維持できなければ存続が難しくなります。「助成金があるから大丈夫」という説明だけでは、2年後以降の収益見通しが見えないため、生産活動による収益の状況も合わせて確認するとよいでしょう。
ミニQ&A
Q:A型事業所に通っていた場合、事業所が受け取る助成金は私の賃金に反映されますか?
A:必ずしも直接反映されるわけではありません。助成金は事業所の経営・環境整備に使われるもので、賃金との連動は事業所ごとに異なります。賃金は雇用契約書に定められた額が支払われます。
Q:助成金があれば事業所は安定しているといえますか?
A:一時的には安定しますが、助成金は期間限定の支給です。生産活動の収益で賃金を確保できているかどうかが、長期的な安定の判断基準になります。
安定した事業所の特徴とこれからの動向
2024年の閉鎖ラッシュを経て、生き残った事業所には一定の共通点があります。同時に、今後の制度の方向性を知っておくことで、事業所を選ぶ際や現在の事業所の状況を見極める際の参考になります。
生産活動が自立している事業所の見分け方
安定した運営を続けているA型事業所の多くは、生産活動の収益だけで利用者への賃金を賄えている「収支黒字」の状態にあります。2024年以降の改定では、この状態にある事業所のスコアが高く評価され、基本報酬の単価も維持されやすくなっています。
収益が安定している事業所は、一般的に単価の高い業務を手がけていることが多いです。データ入力・ECサイト運営・パソコン業務・クリーニング受託など、スキルを必要とする業務に利用者の適性を活かしながら取り組んでいる事業所は、内職や低単価の軽作業に依存している事業所に比べて収益の安定度が高い傾向があります。
また、複数の取引先から安定して受注している事業所や、地域の企業と連携した施設外就労を積極的に行っている事業所も、収益の多角化という観点から安定性が高いと言えます。
スコアが高い事業所はどこで確認できるか
A型事業所のスコアは、令和6年度の報酬改定から情報公表制度に基づいて公表が義務づけられています。WAM NET(wam.go.jp)の「障害福祉サービス情報公表」から事業所ごとの情報を検索すると、スコアや平均賃金、利用者数などの基本情報が確認できます。
スコアの具体的な数値を確認するには、各都道府県が運営する「障害福祉サービス等情報公表システム」から当該事業所を検索する方法が有効です。スコアの高低だけで判断するのは難しい面もありますが、同一地域内の複数の事業所を比較する際の参考指標として活用できます。最新のスコアは厚生労働省の障害福祉サービス情報公表ページ(mhlw.go.jp)からも案内されています。
2026年以降の見通しと利用者が備えること
2025年10月からは就労選択支援が本格的にスタートし、障がいのある方が就労移行支援・A型・B型など複数の選択肢の中から適切なサービスを選べる仕組みが整備されています。この流れは、利用者自身が自分に合った場を主体的に選ぶことをより重視する方向性の表れです。
2026年以降も、社会保険の適用拡大(2026年10月から短時間労働者への適用が一段階拡大)など、A型事業所の経営環境が変わる要因が控えています。これにより事業所側のコストが増える可能性があり、特に短時間就労の利用者が多い事業所への影響が指摘されています。
利用者として備えられることとして、相談支援専門員との関係を継続的に維持しておくことが挙げられます。事業所の閉鎖があったとしても、相談支援専門員が把握している情報量は大きく、転所先の候補を一緒に探す際の大きな助けになります。また、複数の事業所を知っておき、選択肢を広げておくことも安心につながります。
| 確認できること | 確認先 |
|---|---|
| スコア・平均賃金・利用者数 | WAM NET(wam.go.jp) |
| 閉鎖・廃止事業所情報 | 市区町村の障害福祉担当窓口 |
| 次の事業所や支援先の探し方 | 相談支援専門員・地域の基幹相談支援センター |
| 再就職・求職の相談 | ハローワーク(障がい者専門窓口) |
| 制度全般の最新情報 | 厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」ページ |
まとめ
A型事業所への助成金・給付金が「減らされた」という話の実態は、令和6年度報酬改定によってスコア方式が厳格化され、生産活動収支が赤字の事業所ほど基本報酬が大幅に下がる仕組みが導入されたことにあります。
利用者として最初に確認しておきたいのは、通っている事業所(または検討中の事業所)の生産活動の内容と収益の状況です。WAM NETから公表情報を確認したり、見学時に具体的な仕事の内容を聞いたりすることが、安定した事業所を見極める第一歩になります。
制度は変わり続けますが、相談支援専門員や市区町村の福祉窓口を頼りながら、自分に合った就労の場を選んでいきましょう。最新の制度情報は厚生労働省の「障害者の就労支援対策の状況」ページや、各都道府県の障害福祉担当部署で確認することをおすすめします。


