就労移行支援を利用しても就職に結びつく人とそうでない人がいる——これは制度の現実として知っておく価値のある事実です。厚生労働省のデータによると、就労移行支援から一般就労に移行した割合(一般就労移行率)は令和5年時点で56〜58%台と報告されており、約半数はその利用期間内に一般就労へ進めていないことが分かります。
この数字は「就労移行支援が無意味」を示すものではありません。就職に結びつかない背景には、個人の状態や準備の度合い、事業所とのマッチングなど、複合的な要因があります。それを整理することで、今後の行動を具体的に考えやすくなります。
この記事では、就職できる人とできない人の傾向を客観的なデータと視点から整理し、就職につながりやすくなるための実践的なポイントをまとめます。現在利用中の方も、これから検討している方も、ぜひ参考にしてください。
就労移行支援で就職できる人・できない人の傾向を整理する
就職できるかどうかは、個人の努力だけで決まるものではありません。本人の状態、準備の度合い、事業所との相性など、いくつかの要素が組み合わさって結果に影響します。まずは傾向を客観的に確認しておきましょう。
就職できる人に共通して見られる特徴
就職に結びつく人には、いくつかの共通点があります。まず挙げられるのは、通所の安定です。週4〜5日のペースで安定して通所できている人は、企業が求める「決まった曜日・時間に出勤できる」という基本的な条件を訓練段階でクリアしていることになります。
次に自己理解の深さがあります。自分の障害特性や体調のパターン、苦手な状況を把握し、「どんな配慮があれば働けるか」を言語化できる人は、企業面接でも具体的な説明ができ、採用担当者に安心感を与えやすい傾向があります。さらに、見学や実習に積極的に参加し、支援員のフィードバックを受け入れる姿勢も就職者に共通して見られます。
就職に結びつきにくい人に見られる傾向
一方、就職に至らないケースには一定のパターンがあります。最も多いのは、通所が安定しない状態が続くことです。体調の波が大きく、週に数日しか通えない段階では、就職活動の前段階である「働く生活リズムを整える」フェーズにとどまることになります。
また、特定の職種や条件へのこだわりが強すぎるケースも見られます。希望条件と現実の求人の間に大きな開きがあると、応募できる先が見つかりにくくなります。就職意欲はあるものの、支援員との関係が薄く、情報共有が不十分なまま進んでしまうケースも就職に時間がかかる要因になります。
事業所側の要因が影響することもある
就職できない原因が、本人だけにあるとは限りません。事業所のプログラム内容が希望する職種と合っていない、スタッフとの信頼関係が築けていない、就職実績が少なく求人情報が少ないといった事業所側の要因が重なることもあります。
事業所は国から支援人数に応じた報酬を受ける仕組みになっているため、利用者を増やすことを優先して支援の質が追いつかない事業所がゼロではないことも指摘されています。数か月通所しても同じ仲間の中に企業実習や就職の動きが見えない場合は、事業所の支援体制を改めて確認するとよいでしょう。
体調が安定しない段階では、まず「通えること」を目標にするのが現実的な一歩です。
就職を焦るより、土台をつくることが先につながります。
- 就職できる人は週4〜5日の安定通所ができている
- 自分の障害特性と必要な配慮を言語化できている
- 実習・見学に積極的に参加し、フィードバックを受け入れる
- 就職できない背景には事業所の支援体制の問題が重なることもある
- 通所が不安定な段階では、まず体調と生活リズムの安定を優先する
就労移行支援の就職率の実態と、知っておくべき数字
「就労移行支援を使えば就職できる」とも「使っても就職できない」とも、一言では言い切れません。公的なデータが示す実態を先に確認しておくと、自分の状況を冷静に判断しやすくなります。
厚生労働省データが示す一般就労移行率
厚生労働省の資料によると、就労移行支援のサービス利用終了者に占める一般就労への移行率は令和5年(2023年)時点で56〜58%台と報告されています。令和4年(2022年)は15,094人が一般就労に移行し、令和5年は前年比で約9%増加して約2.7万人が一般就労に結びついたとされています。
この数字は「利用を終了した人のうち一般就労に移行した割合」であり、途中でサービス利用を中断した人も分母に含まれる点に注意が必要です。利用を最後まで続けた人に限定すると、就職につながる割合はこれより高くなる傾向があります。最新の数値は厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」のページで随時更新されているため、最新情報はそちらでご確認ください。
障害の種別による就職率の差
東京都福祉局が実施した就労移行等実態調査(令和4年度)のデータによると、就職率は障害の種別によって異なります。精神障害のある方は50.0%、発達障害のある方は51.4%、知的障害のある方は42.1%、身体障害のある方は42.2%という数字が示されています。
この数字はあくまでも東京都内の調査結果であり、全国平均や地域・事業所によって差があります。自分の障害種別の数字だけで判断するのではなく、通う事業所の就職実績や支援の特色を合わせて確認するとよいでしょう。
就職後の定着率も確認しておく
就職後に長く働き続けられるかどうかも、重要な視点です。就労移行支援を利用して就職した後の6か月時点での職場定着率は、令和5年度の調査では89.5%という数値が報告されています(厚生労働省「令和5年度障害福祉サービス等報酬改定の効果検証及び実態調査」)。就職後6か月間は就労定着支援として事業所から継続的なサポートを受けられる仕組みがあり、それが定着率の高さに貢献しているとみられます。
| 指標 | 数値(概要) | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 一般就労移行率 | 令和5年時点で56〜58%台 | 厚生労働省資料(複数調査) |
| 令和5年の一般就労移行者数 | 約2.7万人(前年比約9%増) | 厚生労働省・社会福祉施設等調査 |
| 就職後6か月定着率 | 89.5% | 厚生労働省・令和5年度報酬改定効果検証調査 |
- 就労移行支援の一般就労移行率は令和5年時点で56〜58%台
- 令和5年の一般就労移行者数は前年比で約9%増えている
- 就職後6か月の定着率は89.5%と高い水準にある
- 障害種別・地域・事業所によって就職率には差がある
- 就職率の算出基準は事業所ごとに異なるため、見学時に確認するとよい
就職できる人になるために利用中に意識したいポイント
就労移行支援を利用している期間に何を意識して過ごすかで、就職の結果が変わります。ここでは、就職につながりやすくなるために利用中に取り組んでおきたい具体的なポイントを整理します。
自己理解を深め、配慮事項を言語化する
就職活動で企業に伝えるべき最も重要な情報のひとつが、「自分にどんな配慮があれば働けるか」という具体的な内容です。「体調が波打ちやすいので、週初めは業務量を調整してほしい」「蛍光灯の光が苦手なので座席位置を相談したい」など、配慮事項が具体的であるほど、企業の採用担当者は「一緒に働けるかどうか」を判断しやすくなります。
自己理解を深めるためには、通所中に記録をつける習慣が助けになります。体調が崩れやすい曜日や時間帯、ストレスになる状況を書き留めておくと、支援員との面談でより具体的な相談ができます。障害名を伝えれば企業が全て察してくれるわけではないため、自分で説明できる準備をしておくことが大切です。
通所の安定を最優先に考える
就職して働くということは、決まった曜日・時間に継続して出勤することを意味します。通所の安定は、それを練習する場として機能しています。最初から週5日を目標にする必要はありませんが、自分が目指す勤務日数と同等の通所頻度に近づけていくことが、就職準備の実質的な基準になります。
体調の波が大きい場合は、担当の医師や支援員に相談しながら通所日数を調整するとよいでしょう。「今は週2日だけど月末には週3日を目指す」といった具体的な目標を立てると、進捗が見えやすくなります。通所記録をつけておくと、後の就職活動で「通えている実績」として活用できます。
実習・見学の機会を積極的に活用する
企業実習(職場実習)は、実際の職場環境で自分がどう動けるかを確認できる貴重な機会です。就職できる人には「実習や見学に積極的に参加した」という共通点が多く見られます。実習は就職の直前だけに行うものではなく、早い段階から参加することで自己理解が深まり、希望する職種のイメージも具体化されます。
実習後には、うまくできたこと・できなかったことを支援員と振り返る時間をつくるとよいでしょう。この振り返りが、次の実習や面接準備に直接活かされます。
補強例:実習先で「指示の受け方が分からなかった」と感じたなら、その経験を元に「質問の仕方のロールプレイを訓練に組み込む」よう支援員に依頼してみましょう。実習での気づきを次の訓練内容に反映させることで、準備の質が上がります。
- 配慮事項は「具体的な内容」で言語化する習慣をつける
- 目標とする勤務日数に近い通所頻度を意識する
- 体調管理の記録をつけ、支援員との相談に活かす
- 企業実習には早い段階から積極的に参加する
- 実習後の振り返りを次の訓練に結びつける
就職活動でつまずきやすいポイントと事業所選びの見直し方
就労移行支援を利用していても、就職活動が思うように進まない場面があります。そのとき原因がどこにあるかを整理することで、次の行動が見えてきます。事業所との相性も含めて確認しておきましょう。
就職活動でつまずきやすい3つの場面
就職活動でよく聞かれるつまずきには3つのパターンがあります。1つ目は書類選考の段階です。履歴書や職務経歴書に何を書けばよいか分からない、空白期間の説明が難しいと感じるケースです。この場合は、支援員と一緒に「自分の強みと配慮事項を盛り込んだ書類」を作成する練習をくり返すことで改善できます。
2つ目は面接での自己表現の難しさです。「障害のことをどこまで話せばよいか」「緊張すると言葉が出てこない」という悩みが多く見られます。オープン就労(障害者雇用枠での応募)とクローズ就労(一般枠での応募)の違いを理解したうえで、どちらを選ぶか支援員と整理しておくと面接準備がしやすくなります。3つ目は企業とのミスマッチです。希望職種と事業所のプログラムが合っていない場合、訓練を積んでも就職先が見つかりにくくなります。
事業所との相性が合わないと感じたときの確認ポイント
数か月通所して「自分に合っていないかもしれない」と感じた場合は、以下の点を確認してみましょう。支援員に今後の就職計画を相談したとき、具体的な回答が返ってくるか。事業所の就職実績(過去1〜2年の就職者数・定着率)を確認したとき、開示してもらえるか。通っている利用者の中に、企業実習や就職に向けた動きをしている人がいるかどうか。
これらの確認ができない、または回答が曖昧な場合は、相談支援専門員(※障害者総合支援法に基づく相談援助の専門職)に事業所変更の相談をすることも選択肢のひとつです。事業所の変更自体は制度上可能であり、受給者証の利用先を変えることで対応できます。
就職できなかった場合の次のステップを知っておく
就労移行支援の利用期間(原則2年間)内に就職に至らなかった場合でも、選択肢はあります。サービス利用の延長申請(市区町村への申請が必要)、就労継続支援A型・B型への移行、別の就労移行支援事業所への変更などがあります。また、ハローワークの障害者専用窓口や、障害者就業・生活支援センター(なかぽつセンター)への相談も、次のステップとして活用できる公的な窓口です。
しかし、事業所とのミスマッチが原因であることも少なくありません。
うまくいかない場合は、相談支援専門員などの第三者に相談することが次の一手になります。
- 書類・面接・ミスマッチの3つのつまずきを事前に把握しておく
- オープン就労・クローズ就労のどちらで進めるかを支援員と事前に整理する
- 事業所の就職実績を見学・相談時に確認する
- 事業所変更は制度上可能で、受給者証の利用先変更で対応できる
- 利用期間終了後もハローワーク・なかぽつセンターなどの窓口を活用できる
就職後に長く働き続けるために準備しておくこと
就職はゴールではなく、新しいスタートです。就労移行支援での定着率は6か月時点で89.5%と高い水準ですが、それ以降も安定して働き続けるためには、就職前から意識しておきたい準備があります。
就職後に起きやすい困りごとを知っておく
就職後によく聞かれる困りごとは、大きく3つに分けられます。1つ目は「体調の波と業務量の調整」です。採用時に伝えた配慮が実際の現場でうまく運用されないケース、繁忙期に無理をして体調を崩すケースがあります。2つ目は「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)のタイミング」です。自分では問題ないと判断していても、上司から見ると連絡が少ないと感じられることがあります。3つ目は「職場の人間関係の変化」です。入社直後とは状況が変わり、担当者が変わることや業務が増えることが、ストレスのきっかけになりやすいです。
就労定着支援の仕組みを活用する
就労移行支援を経て就職した後、6か月間は就労定着支援として事業所の支援員から継続的なサポートを受けられます(利用には別途申請が必要です)。支援員が職場を訪問したり、企業・本人・支援員の三者で定期的に面談を行ったりすることで、職場環境の調整を継続できます。就職後に困りごとが生じたとき、一人で抱え込まずに支援員に相談する習慣をつけておくと安心です。
セルフケアと相談のルーティンを仕事の一部にする
就職後に長く働き続けるためには、体調管理を仕事の一部として意識することが助けになります。具体的には、毎日の睡眠時間・食事・服薬(必要な場合)の記録をつける、週に一度は自分の体調と気分を振り返る時間をつくる、困りごとが小さいうちに職場の上司や支援員に伝えるといった習慣です。定期的に医療機関を受診し、就労状況を主治医と共有しておくことも、体調の安定につながります。
就職後も困ったことがあれば、ハローワークの障害者専用窓口、なかぽつセンター、都道府県の障害者就業・生活支援センターに相談できます。就職がゴールではなく、「働き続けること」が目的であることを意識すると、日々の行動の優先順位が定まりやすくなります。
- 就職後の困りごとは「体調調整」「ホウレンソウ」「人間関係の変化」が多い
- 就労定着支援(就職後6か月)を活用して支援員との連携を継続する
- 体調管理の記録と定期的な振り返りを習慣にする
- 困りごとは小さいうちに職場・支援員・主治医に相談する
- ハローワークやなかぽつセンターは就職後も利用できる窓口
まとめ
就労移行支援で就職できるかどうかは、通所の安定・自己理解の深さ・事業所との相性という3つの要素が大きく関係しています。厚生労働省のデータでは令和5年時点の一般就労移行率は56〜58%台、就職後6か月の定着率は89.5%と、適切に支援を活用した場合の成果は確認されています。
まず取り組めることは、「今の自分がどのフェーズにいるか」を確認することです。通所の安定が先か、配慮事項の言語化が先か、事業所の見直しが先かを、支援員や相談支援専門員と一緒に整理してみてください。
就職できなかった場合でも、選択肢はひとつではありません。自分を責めすぎずに、次のステップを一歩ずつ確認しながら進んでいただければと思います。この記事が、あなたの状況整理の助けになれば幸いです。


