障害のある人が自宅で働く、または自宅でスキルを磨く「就労支援の在宅ワーク」は、法律に基づく制度として整備されています。就労移行支援・就労継続支援A型・就労継続支援B型のいずれも、一定の要件を満たせば在宅でのサービス利用が認められています。通所が心身の負担になっていると感じている方、テレワーク雇用を目指して訓練したい方にとって、この制度の仕組みを知っておくことは最初の一歩になるでしょう。
この記事では、就労支援における在宅ワークの制度的な位置づけから、利用できる対象者の条件、実際の仕事内容と訓練内容、メリットとデメリット、事業所選びのポイントまでを整理します。就労系障害福祉サービスの在宅利用にかかるガイドライン(厚生労働省・令和3年3月)などの一次情報をもとにまとめています。
在宅での就労支援が自分に合っているかどうかを判断するための情報として、ぜひ最後まで読んでみてください。
就労支援で在宅ワークができる制度の仕組み
障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスでは、就労移行支援・就労継続支援A型・就労継続支援B型のいずれも、利用者の自宅等での訓練や生産活動を一定の要件のもとで実施できるとされています。この取り扱いの根拠は、厚生労働省が発出した「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(平成19年4月2日付 障障発第0402001号)に示されており、要件を満たした場合は在宅でのサービス利用に対しても報酬を算定できます。
在宅サービス利用が認められる法的根拠
障害者総合支援法のもとで提供される就労系障害福祉サービスは、もともと事業所への通所を基本としていました。在宅利用が本格的に制度として整備されたのは、就労移行支援については平成27年度(2015年度)からです。就労継続支援A型・B型については、それより以前から施設外支援の一形態として在宅での作業・活動が認められていた経緯があります。
令和3年(2021年)4月以降は、コロナ禍を契機に緩和された要件が常時の取り扱いとして定着し、「在宅でのサービス利用を希望する者であって、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市町村が判断した場合」という条件で利用できるようになっています。
在宅利用に必要な7つの運営要件
厚生労働省の留意事項通知では、在宅でサービスを提供して報酬を算定するために、事業所が満たすべき要件が定められています。主な要件は以下の通りです。
- 運営規程に在宅で実施する訓練・支援内容を明記すること
- 利用者に対し1日2回は連絡・助言または進捗確認を行い、日報を作成すること
- 緊急時に対応できる体制を確保すること
- 随時、訪問や連絡による支援が提供できる体制を確保すること
- 週1回以上、訪問・通所またはICT機器を活用して評価を行うこと
- 原則として月に1日は訪問または通所により、訓練目標の達成度を評価すること
- 常に在宅利用者が行う作業活動・訓練等のメニューを確保すること
在宅と通所の組み合わせが基本
在宅でのサービス利用は、完全に通所をなくすものではなく、通所との組み合わせで運用されるのが一般的です。厚生労働省のガイドラインでは、週1〜2回を在宅訓練にあて、残りを通所で補うような活用事例が紹介されています。また、月の利用日数のうち少なくとも1日は事業所職員の訪問または利用者の通所により、訓練目標の達成度を評価することが原則として求められています。
在宅と通所を曜日単位や午前・午後単位で組み合わせることで、利用者の体調や障害特性に応じた負担の少ない訓練計画を立てやすくなります。
制度上は月1日の通所または訪問評価が原則として必要です。
完全在宅を希望する場合は、事業所ごとの運営ルールを事前に確認しましょう。
在宅利用の実施状況の実態
令和2年度に厚生労働省の補助を受けてPwCコンサルティング合同会社が実施した調査では、回答した全国の就労系障害福祉サービス事業所のうち、約2割が令和2年10月の1か月間に在宅で何らかの支援を実施していたことが報告されています。就労移行支援事業所に限ると約3割が在宅でのサービス提供を実施していた一方、就労継続支援B型では15.9%とやや少ない傾向がありました。在宅に対応している事業所はまだ多いとは言えず、事業所選びの段階で在宅対応の有無を確認することが必要です。
在宅訓練・在宅ワークの対象者と利用条件
在宅でのサービス利用を希望するすべての人が自動的に対象になるわけではなく、市町村が支援効果を認めると判断した利用者であることが条件です。利用対象者の考え方と、実際にどのような状態像の方が対象になりやすいかを整理します。
利用対象者の基本条件
就労移行支援の在宅訓練の対象は、一般就労を希望する65歳未満の障害のある人であって、在宅での訓練による支援効果が認められると市町村が判断した人です。身体障害・知的障害・精神障害・発達障害・難病のある人が幅広く対象となります。障害者手帳を持っていない場合でも、自治体の判断によって利用できるケースがあります。
就労継続支援A型・B型の在宅利用についても同様で、事業所が要件を満たした上で市町村が支援効果を認めた利用者を対象として実施されます。利用者の希望を踏まえつつ、個々の状況に応じた検討が必要です。
在宅利用が向いている状態像
厚生労働省のガイドラインでは、精神障害や発達障害の特性により公共交通機関の利用や多人数の環境への適応が難しい方が、在宅訓練によって無理なく訓練を続けられている事例が紹介されています。化学物質過敏症など周囲の環境に左右されやすい障害特性がある方も対象として挙げられています。
障害種別で一律に利用の適否を判断するのではなく、個々人の要望や特徴に応じて柔軟に検討されるものです。令和2年度の調査では、在宅訓練を利用している人のうち精神障害のある方が約6割、身体障害と知的障害の方がそれぞれ約3割という結果が報告されています。
在宅利用に必要な環境の準備
在宅でサービスを利用するには、利用者側でも一定の環境整備が必要です。パソコンやインターネット回線などの通信環境は利用者自身が用意することが基本ですが、事業所によっては機器の貸与やネット回線開通のサポートを行っているところもあります。また、訓練や作業に集中できる個室スペースの確保も重要な準備事項です。
利用を検討している事業所に対して、通信環境のサポート内容や通所頻度のルールを事前に確認しておくとよいでしょう。
「精神障害だから通所が難しい」「身体障害だから在宅が向いている」という一律の基準はありません。
まず相談支援専門員または事業所スタッフに状況を伝えてみましょう。
受給者証の取得と利用開始の流れ
在宅でのサービス利用も、通所と同様に障害福祉サービス受給者証が必要です。受給者証の取得は市区町村の窓口で手続きを行い、サービス等利用計画案の提出を経て発行されます。受給者証が発行されたあとに事業所と契約し、個別支援計画が作成されてからサービス利用が始まります。すでに就労移行支援や就労継続支援を通所で利用している場合でも、在宅利用への切り替えには事業所と市町村への相談が必要です。
在宅で取り組める仕事・訓練の内容
就労支援の在宅ワークで実際にどのような作業や訓練を行うかは、サービスの種類や事業所によって異なります。就労移行支援では在宅での就労訓練が中心となり、就労継続支援A型・B型では在宅での生産活動(工賃・賃金の対象となる作業)も含まれます。
就労移行支援における在宅訓練の内容
就労移行支援の在宅訓練では、PCを使用したデータ入力やWord・Excelの操作訓練、プログラミング、Webデザインなどが主な訓練内容として挙げられています。ビジネスマナーのeラーニング、自己理解、コミュニケーション訓練、就職活動に関する相談・支援なども在宅で実施されています。リモート会議ツール(Zoomなど)やチャットツール(Slack・Chatworkなど)を使ったやり取りそのものが、テレワーク就労に向けた実践的な訓練になります。
取得を目指せる資格としては、ITパスポート(情報処理の基礎知識に関する国家資格)、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)、Illustratorクリエイター能力認定試験などが事業所によって支援対象となっています。
就労継続支援A型・B型における在宅の作業内容

就労継続支援A型・B型での在宅生産活動として多く見られる内容には、データ入力、文字起こし、Webライティング、簡単な画像加工・イラスト制作、Web制作・サイト管理などがあります。製造・組立作業を在宅で実施しているケースも報告されており、必ずしもITサービスに限られるわけではありません。
就労継続支援B型で在宅利用が可能かどうかは、最終的には利用者が住む自治体の判断によります。事業所によって対応できる作業内容は大きく異なるため、見学や体験の段階で具体的な仕事内容を確認しておくことが大切です。
1日の訓練・作業の進め方
在宅利用では1日2回以上、事業所スタッフからの連絡・確認が行われるのが制度上の要件となっています。朝の開始時に体調確認と連絡事項の共有、作業・訓練への取り組み、終了時の日報記録と振り返りという流れが一般的です。週5日・1日6〜7時間を目標として段階的に訓練時間を増やしていく形をとる事業所が多く、体調に合わせて週2〜3回・短時間から始めることも可能です。
| 区分 | 主な内容 | 工賃・賃金 |
|---|---|---|
| 就労移行支援(在宅訓練) | PCスキル訓練、eラーニング、就活支援 | なし |
| 就労継続支援A型(在宅) | データ入力、Web制作、各種PC作業 | 最低賃金以上の賃金あり |
| 就労継続支援B型(在宅) | データ入力、文字起こし、軽作業 等 | 工賃あり(最低賃金の適用なし) |
在宅ワークのメリットとデメリット
就労支援における在宅ワークには、通所にはない利点がある一方で、注意が必要な点もあります。どちらの側面も理解した上で、自分の状態や目標に合った利用方法を検討するとよいでしょう。
在宅利用の主なメリット
在宅訓練の最も大きな利点は、通勤による身体的・精神的な負荷を減らせることです。精神障害や発達障害の特性により、公共交通機関や多人数の環境への適応が難しい方でも、自宅という慣れた環境で訓練に集中しやすくなります。令和2年度の調査では、在宅でのサービス利用を実施した事業所の5割近くが「通所のみで支援するより負担が軽く、効果的に活動・支援できている」と回答しており、通所が困難だった方の訓練継続につながった事例も報告されています。
また、Zoom・Slack・Chatworkなどのビデオ通話ツールやチャットツールを使った日常的なやり取りが、テレワーク就労に必要なコミュニケーションスキルの習得に直結します。在宅での集中力やセルフマネジメントの力を段階的に身につけられる点も、在宅雇用を目指す方にとって実践的な訓練環境となります。
在宅利用の主なデメリット
在宅利用には課題も伴います。令和2年度の調査では、在宅でのサービス利用を実施した事業所の約3割が「生活・就業リズムが崩れ影響が出ている」と報告しており、通所によって維持されていた生活リズムが乱れやすくなる点は主要なリスクとして挙げられています。孤独感やモチベーションの低下が生じやすいという課題も同様に報告されています。
また、対面でのコミュニケーション訓練や他の利用者との交流が減ることで、対人スキルの向上が通所に比べて難しくなる面があります。運動不足になりやすい点も見落としがちな注意事項です。
在宅利用で就職につながるケース
在宅でのサービス利用を経て一般就労に移行した事例は、厚生労働省のガイドラインの巻末事例にも紹介されています。通所のみでは週2〜3回しか訓練できなかった方が、在宅訓練との組み合わせで週5日の訓練が可能になり、テレワーク雇用につながったケースがあります。在宅雇用を目指す場合は、在宅でのサービス利用期間が実際の就労に向けた模擬的・実践的な訓練環境として機能します。
ただし、在宅求人はまだ数が限られているのが現状であり、就職活動の段階ではハローワークや就労支援機関との連携のもと、在宅での雇用が可能な企業を積極的に探す取り組みが必要になります。
在宅対応の事業所を選ぶ際のポイント
在宅でのサービス利用に対応している事業所は、就労移行支援全体の約3割とまだ限られています。事業所選びの段階で確認しておくべき点を整理しておくと、後のミスマッチを防ぎやすくなります。
在宅対応の範囲と通所頻度のルール
事業所によって、在宅対応の範囲は大きく異なります。完全在宅(通所ゼロ)を認めるところは少なく、多くの事業所で「月1回」や「週1回」など独自の通所ルールが設けられています。また、制度上の要件として月に1日は職員の訪問または利用者の通所による達成度評価が原則として求められています。見学・相談の段階で通所頻度のルールを必ず確認しましょう。
訓練内容と在宅で取り組める作業の種類
事業所ごとに在宅で提供できる訓練・作業内容は異なります。テレワーク就労を目指している場合は、PCスキル訓練の内容、リモート会議ツールの使用環境、資格取得支援の有無を確認しておくとよいでしょう。就労継続支援A型・B型で在宅利用を希望する場合は、在宅で対応可能な作業の具体的な種類と工賃・賃金の水準も確認対象です。
通信環境サポートと緊急時対応の体制
在宅でのサービス利用には、利用者側のパソコンやインターネット環境が必要です。事業所によっては機器の貸与や回線開通のサポートを行っているところもあります。緊急時対応ができる体制の確保は制度上の要件であり、事業所がどのような緊急時対応フローを持っているかを見学・相談時に確認しておくと安心です。
全国の就労系障害福祉サービス事業所はWAM NET(福祉保健医療情報ウェブシステム)で検索できます。在宅対応の有無や事業所の基本情報を絞り込んで探すことができるため、居住地域での事業所探しに活用できます。
就労定着支援との連携の有無
就職後の定着支援は、在宅雇用においてとくに重要な位置を占めます。在宅勤務では職場での様子が直接見えにくいため、上司や同僚が体調変化や困りごとを把握しにくいケースが生じやすいことが指摘されています。就労移行支援事業所の場合は就職後一定期間の定着支援が制度として位置づけられていますが、その内容が在宅勤務者に対応したものかどうかを確認しておくことがよいでしょう。
| 確認項目 | 確認の目安 |
|---|---|
| 在宅利用の通所頻度ルール | 月何回か・訪問対応の有無 |
| 在宅での訓練・作業内容 | PCスキル・作業種別・資格支援の有無 |
| 通信環境サポート | 機器貸与・回線サポートの有無 |
| 緊急時対応体制 | 連絡フローと対応窓口の確認 |
| 就労定着支援の内容 | 在宅雇用後のフォロー体制 |
まとめ
就労支援の在宅ワークは、障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスの枠組みの中で、制度として位置づけられた利用形態です。就労移行支援・就労継続支援A型・B型のいずれでも、市町村が支援効果を認めた場合に在宅でのサービス利用が可能となっています。
在宅利用を検討する最初のステップとして、市区町村の障害福祉窓口または相談支援事業所に相談し、受給者証の取得手続きの流れを確認するとよいでしょう。その後、在宅対応の事業所を見学・体験して、通所頻度のルールや訓練内容が自分の状況に合うかを確かめることが判断の基本になります。
在宅ワークの仕組みを正しく理解した上で事業所を選ぶことが、就労への着実な一歩につながります。自分のペースで、無理のない形で社会参加の第一歩を踏み出せるよう、情報をうまく活用してください。

