就労移行支援事業所にとって、利用者の継続的な獲得は運営の根幹にかかわる課題です。障害者総合支援法に基づく就労移行支援は利用期間が原則として最大2年(24ヶ月)と定められており、利用者が就職して卒業するたびに新規の方を受け入れなければ事業所は成り立ちません。厚生労働省のデータによると、就労移行支援事業所の就職者の平均利用月数はおよそ15.9ヶ月(2017年度)とされており、1年数ヶ月のスパンで利用者が入れ替わるフロー型のモデルです。
そのため集客は「一時的な取り組み」ではなく、事業所の運営と並行して継続的に行う必要があります。関係機関からの紹介だけに頼る体制では、事業所数が頭打ちになりつつある現在の市場で安定した稼働率を保つことは難しくなっています。本記事では、事業所の特性や規模を問わず実践しやすい集客の考え方と具体的な方法を整理します。
就労移行支援の運営に携わる方や、これからスタッフとして関わろうと考えている方にとって、集客の仕組みを理解しておくことは支援の質を守るためにも欠かせない視点です。事業所が安定して運営できてこそ、利用者一人ひとりへの丁寧な支援が続けられます。
就労移行支援の集客が難しい理由と前提を整理する
集客の具体的な方法に入る前に、就労移行支援事業所が置かれている構造的な背景を整理しておくと、取り組みの方向性が明確になります。利用者を集めにくい理由は、マーケティングの問題だけでなく、制度の仕組みにも関係しています。
フロー型モデルゆえの課題
就労移行支援は、一般企業への就労を目指す障がいのある方(原則65歳未満)を対象にした障害者総合支援法に基づく福祉サービスです。利用期間は原則として24ヶ月以内とされており、利用者は就職後に事業所を「卒業」していきます。
つまり、利用者が成果を出せば出すほど事業所を離れていく仕組みです。就職実績を積み上げながら、同時に新規の利用者を継続的に獲得しなければなりません。この構造を理解していないと、集客への投資が後手に回りやすくなります。
厚生労働省の資料によると、就労移行支援事業所の数は2017年に約3,357事業所でピークを迎えたのち、頭打ちの傾向が続いています。一方で利用者数は増加傾向にあり、既存事業所にとっては利用者獲得の競争が生じやすい状況です。
利用者が事業所を知るきっかけは複数ある
利用者が就労移行支援事業所を知るルートは大きく2つに分かれます。一つは相談支援事業所や病院、ハローワーク、特別支援学校などの関係機関からの紹介です。もう一つは、インターネット検索やSNSなどを通じて自ら情報を収集するケースです。
厚生労働省の就労移行支援ガイドブックでも、就労移行支援事業所が職業紹介を直接行うことは制度上できないと整理されており、ハローワーク・障害者就業・生活支援センター・障害者職業センター等との連携が基本的な位置づけとなっています。
精神障害や発達障害のある方はスマートフォンを活用して自ら事業所を探すケースが多いとされています。一方、知的障害のある方は行政窓口や特別支援学校からの紹介が主なルートになりやすいため、対象とする利用者層によって有効な集客経路が異なります。
稼働率の目安と現状のデータ
厚生労働省の令和4年度障害者総合福祉推進事業による調査によると、就労移行支援事業所の1日あたりの平均利用者数は「1〜5人」が38.1%と最多で、次いで「6〜10人」が23.5%です。利用率(1日平均利用者数÷登録者数)は「71〜80%」が24.7%と最多で、半数以上の事業所が70%以上の利用率を維持しています。
稼働率70%前後を安定的に維持するためには、関係機関経由の紹介だけでなく、複数の集客経路を並行して機能させておく必要があります。どれか1つの経路に依存した状態は、紹介が途切れたときのリスクが高くなります。
① 利用期間が最大2年のため、常に新規獲得が必要
② 利用者が事業所を知るルートは「関係機関」と「Web」の2系統
③ 対象者層(精神・発達・知的など)によって有効な経路が異なる
- 利用者が就職するたびに新規獲得が必要なフロー型の事業モデル
- 関係機関からの紹介が主要な経路だが、それだけでは安定しにくい
- 利用者の障がい種別によって、有効な集客ルートが変わる
- 稼働率70%以上を目指すには複数の経路を並行させる必要がある
関係機関との連携で安定した紹介経路をつくる
就労移行支援の集客において最も基盤となるのが関係機関との連携です。行政窓口や医療機関、相談支援事業所などから継続的に紹介を受けられる関係を築いておくことが、安定した利用者の確保につながります。
主な連携先と役割
就労移行支援事業所が連携すべき関係機関には、大きく分けて福祉系・医療系・労働系の3種類があります。それぞれの機関が持つ接点と役割を整理しておくと、営業活動の優先順位が立てやすくなります。
福祉系では相談支援事業所が中心的な連携先です。計画相談支援を担う相談支援専門員は、利用者が障害福祉サービスを選ぶ際の重要な相談窓口であるため、信頼関係を築いておくと継続的な紹介につながります。特別支援学校との連携も、卒業後の進路先として就労移行支援を検討する生徒へのアプローチになります。
医療系では、精神科・心療内科のクリニックや病院のソーシャルワーカーが有力な連携先です。クリニック併設の薬局も、チラシやパンフレットを設置してもらいやすい場所として知られています。
訪問営業の進め方
関係機関への訪問は、アポイントなしのいきなりの訪問は相手に迷惑と受け取られる場合があります。まず事業所のチラシやパンフレットを郵送し、そのあとに電話で訪問の約束を取り付けるという流れが基本です。チラシを先に送ることで話のきっかけになり、アポイントが取りやすくなります。
訪問時には、管理者や担当者など決定権のある方に会うことが大切です。スタッフ対応のまま終わると紹介につながりにくいため、なるべく責任者に話す時間をもらえるよう調整するとよいでしょう。
訪問後も定期的に情報を届けることで関係が続きます。新しいプログラムの案内や就職実績の報告など、相手にとって役立つ情報を提供し続ける姿勢が信頼関係の構築につながります。
ハローワーク・障害者就業・生活支援センターとの連携
労働系では、ハローワーク(公共職業安定所)と障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ)が主な連携先です。近年は精神障害や発達障害のある方のハローワーク登録が増加傾向にあり、すぐに就職につながらない方が就労移行支援を案内されるケースも生じています。
就労移行支援事業所がこうした機関と連携を深めておくと、新規利用の相談が増えやすくなります。また、この連携は集客だけでなく、利用者の就職先開拓・企業実習の受け入れ先を増やす上でも機能します。
① 事業所の強みを整理したチラシ・パンフレットを作成する
② 郵送で先方に届ける
③ 電話でアポイントを取り、責任者に面会する
④ 定期的にフォローし、情報交換の関係を維持する
- 相談支援事業所・特別支援学校・医療機関・ハローワークが主な連携先
- 訪問はアポイントを事前に取り、責任者に会う機会をつくる
- チラシの先行郵送が電話アポイントのきっかけになる
- 連携は集客だけでなく、就職後の定着支援にもつながる
Webを活用して利用者自身に見つけてもらう
就労移行支援を自ら探す利用者は、スマートフォンやパソコンを使って地名と組み合わせた検索を行うケースが多くあります。この層に届くためには、Webを通じた情報発信の整備が欠かせません。関係機関経由の紹介と組み合わせることで、集客経路を広げられます。
ホームページの整備
事業所のホームページは、集客における「顔」の役割を果たします。利用者や家族がアクセスしたとき、事業所の雰囲気・プログラム内容・スタッフの様子・就職実績が分かる状態にしておくことが大切です。
特に「どの障がい種別に対応しているか」「どのような訓練プログラムがあるか」「利用料の目安はいくらか」といった情報が整理されていると、問い合わせのハードルが下がります。情報が古いままのサイトは信頼感を損なうため、更新の仕組みを作っておくとよいでしょう。
また、スマートフォンから見やすいレイアウトになっているかどうかも重要です。問い合わせフォームや電話番号が分かりにくい位置にあると、接触の機会を逃すことになります。
Googleビジネスプロフィールの登録と活用
「就労移行支援+地域名」で検索したとき、Googleマップ上に表示される情報は地域で探している利用者に届きやすい経路です。Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)は無料で登録でき、事業所の名称・住所・営業時間・写真・口コミなどを掲載できます。
Googleマップ上での表示順位を上げるための対策はMEO(Map Engine Optimization)と呼ばれます。情報を充実させること、利用者からの口コミに誠実に返信することが基本的な対策です。
まだ登録していない事業所は、まずGoogleビジネスプロフィールへの登録から始めることで、ゼロコストで近隣の検索需要に対応できます。
SNSでの情報発信

SNSは事業所の日常の様子や支援の雰囲気を伝えるのに適しています。利用者が問い合わせ前に事業所の雰囲気を確認する手段として機能することが多く、問い合わせのハードルを下げる効果があります。
X(旧Twitter)やInstagram、Facebookは文字と画像が中心のため、動画系のSNSに比べて運用の負担が少なくなっています。ただし、利用者のプライバシーへの配慮が必要であり、写真掲載のルールを事前に整備しておくことが欠かせません。
投稿が止まっているアカウントは信頼感を損なう場合があります。無理のない更新頻度で継続することが、SNS運用では最も重要なポイントです。
| 集客手段 | 費用感 | 到達できる利用者層 |
|---|---|---|
| ホームページ整備 | 中〜高(初期費用あり) | 自ら検索する利用者・家族 |
| Googleビジネスプロフィール | 無料 | 地域名で検索する利用者 |
| SNS運用 | 無料〜低 | 事業所の雰囲気を確認したい利用者 |
| Web広告(リスティング等) | 高(クリック課金) | 特定キーワードで検索する利用者 |
- ホームページは対応障がい・プログラム・利用料の情報を整備する
- Googleビジネスプロフィールは無料で始められる基本の集客ツール
- SNSは問い合わせ前の雰囲気確認に機能する
- プライバシーへの配慮と継続的な更新が運用の前提となる
事業所の強みを明確にして差別化する
集客の手段を整えるだけでなく、「なぜこの事業所を選ぶのか」という理由を明確に示すことが、問い合わせを獲得するためには欠かせません。利用者は複数の事業所を比較しながら選択するため、自事業所の特徴が伝わらなければ問い合わせには結びつきにくくなります。
利用者が事業所を選ぶ基準
利用者が就労移行支援事業所を選ぶ際に重視するポイントとして、訓練プログラムの内容・就職実績・事業所の雰囲気・通いやすさの4つが挙げられます。就職後も一定期間支援を受けられる就労定着支援との一体的な提供も、選ばれる理由の一つになります。
就労移行支援の就労移行率(一般就労への移行率)は5割を超えており、年々上昇傾向にあります。実績データを公開している事業所は、利用者の信頼を得やすい立場にあります。就職者数・職種の傾向・定着率などを整理して発信しておくことが有効です。
特化型か総合型かでコンセプトを定める
すべての障がい種別に対応しようとすると、サービスの強みが分かりにくくなります。発達障害に特化したプログラムを充実させる、IT系スキルのカリキュラムを専門的に組む、精神障害のある方のペース調整に強みを持つ、など何かに軸を置くことで事業所のコンセプトが明確になります。
特化型の事業所は、そのニーズに合った利用者にとって「選びやすい」存在になります。ただし、特定の対象に絞ると対象外の方からの問い合わせが減る可能性もあるため、立地エリアの需要と照らして判断することが大切です。
見学・体験を問い合わせの入口にする
利用者が事業所を選ぶプロセスは、問い合わせから見学、体験利用、利用開始という流れが一般的です。問い合わせのハードルを下げるためには、見学や体験を気軽に受け付ける体制を整えることが重要です。
ホームページやSNSで「見学は随時受け付けています」と明示しておくだけで、問い合わせ数が変わる場合があります。また、見学から利用開始までの期間が長くなりやすいため、見学後のフォローを継続する仕組みが必要です。
・就職実績(就職者数・定着率)を具体的に示している
・対応できる障がい種別・プログラムの特徴が明確
・通いやすい立地と事業所の雰囲気の良さが伝わる
・見学・体験を随時受け入れている
- 訓練プログラムの内容・就職実績・通いやすさが利用者の選択基準になる
- 特化型か総合型かのコンセプトを早めに定めると発信内容が明確になる
- 見学・体験の受け入れを明示すると問い合わせのハードルが下がる
- 見学後のフォローを仕組み化することで利用開始率を高めやすい
集客を継続させるための運営上の視点
集客は「始めたら終わり」ではなく、継続的に運営に組み込む必要があります。特に就労移行支援では利用者の入れ替わりがあるため、定員に空きが出る前から次の利用者の獲得に向けた動きを続けることが大切です。
複数の経路を組み合わせる
関係機関からの紹介だけ、またはWebだけといった単一経路への依存は、その経路が途切れたときの影響が大きくなります。関係機関への営業・Webの整備・SNSの発信・ポータルサイトへの掲載など、複数の経路を並行して機能させておくことで安定した集客に近づきます。
ポータルサイト(就労移行支援の情報を集めた比較検索サイト)への掲載は、利用者が複数の事業所を比較する入口として有効です。無料掲載と有料掲載があり、まず無料のものから試しておくとよいでしょう。
問い合わせから利用開始までの管理を仕組み化する
問い合わせがあってから実際に利用を開始するまでの期間は、体調の変化や他事業所との比較などの理由で長くなりがちです。この期間中にフォローがないと、他事業所に流れてしまう場合があります。
問い合わせ日・見学日・体験利用の予定・フォロー連絡のタイミングを記録・管理するツールを整えておくと、対応漏れを防ぎやすくなります。手書きの台帳からスプレッドシートなどのデジタルツールに移行するだけでも、管理のしやすさが変わります。
支援実績の発信が中長期の集客につながる
就労移行支援事業所が利用者から選ばれるために最も重要な要素の一つが、就職実績と定着率です。就職者数・就職先の業種・利用者の声(匿名)・就労後の定着支援体制などを継続的に発信することが、中長期的な集客の土台になります。
実績を公開している事業所は、「どれくらい就職できるのか」を事前に確認したい利用者や家族に対して説得力を持ちます。数字の透明性が信頼につながり、問い合わせを増やす効果があります。
スタッフの採用・育成も集客に影響する
集客は広報だけの問題ではありません。支援の質が上がれば口コミや紹介が生まれやすくなり、スタッフが安定して在籍することで支援の継続性が保たれます。支援員・職業指導員・生活支援員などのスタッフ体制が充実していることは、利用者の選択理由にもなります。
サービス管理責任者の専門性・スタッフの研修体制なども、ホームページや見学の場面で伝えると事業所の信頼感を高める材料になります。
- 関係機関・Web・SNS・ポータルサイトなど複数経路を並行させる
- 問い合わせから利用開始までのフォローを仕組み化する
- 就職実績の継続的な発信が中長期の集客の土台になる
- スタッフ体制の充実も利用者の選択基準に影響する
まとめ
就労移行支援事業所の集客は、関係機関への営業とWebを通じた情報発信の2つを軸に、複数の経路を組み合わせて継続することが基本です。利用者が就職するたびに新規の方を獲得しなければならない事業構造上、集客を止める時期はなく、日常の運営の一部として組み込む意識が欠かせません。
まず取り組みやすいのは、Googleビジネスプロフィールへの登録と、近隣の相談支援事業所へのチラシ送付+電話アポイントです。どちらも費用をほとんどかけずに始められ、事業所の認知を広げる第一歩になります。
利用者が安心して通えて、就職後も生活が安定できる支援を届けるためには、事業所が安定して運営されていることが前提です。集客の仕組みを整えることは、利用者一人ひとりへの支援を守ることにもつながります。事業所の強みを整理するところから、ぜひ始めてみてください。
本記事の内容は、厚生労働省・自治体などの公的機関の公開資料をもとに整理したものです。制度・利用条件・支給額などは改正・変更される場合があります。最終的な判断や申請手続きの前には、必ずお住まいの自治体窓口や各事業所の最新情報をご確認ください。

