就労継続支援B型の工賃は、多くの場合、所得税がかからない範囲に収まります。しかし「なぜ非課税になるのか」「どこまでが非課税なのか」という仕組みを整理しておかないと、副業収入が増えたときや家族の扶養控除に影響するときに判断が難しくなります。
B型事業所の工賃は「雑所得」として扱われ、給与所得とは異なる控除の仕組みが適用されます。国税庁が定める「家内労働者等の必要経費の特例」という制度によって、実際の出費が少なくても一定額を必要経費として差し引けるため、課税対象の所得が大きく圧縮されます。この特例と基礎控除・障害者控除を組み合わせると、工賃が相当の水準に達するまで税金がかかりません。
この記事では、工賃の所得区分の基礎から、非課税になる金額の目安、副業や給与収入がある場合の注意点、住民税の扱い、そして確定申告が必要になるケースまでを順に整理します。お住まいの自治体窓口や税務署でも確認できる内容ですが、まず全体像を把握しておくと相談がスムーズになるでしょう。
工賃と給与の違い——所得区分が税の扱いを決める
工賃に税金がかかるかどうかは、その収入が「どの所得区分に属するか」によって決まります。就労継続支援A型とB型では、事業所との法的な関係が異なるため、所得の種類も変わります。ここでは工賃の所得区分を確認した上で、なぜB型の工賃には給与と異なるルールが適用されるのかを整理します。
就労継続支援B型の工賃は雑所得に分類される
就労継続支援B型は、事業所と利用者が雇用契約を結ばない仕組みです。利用者は生産活動に参加し、その収益から必要経費を差し引いた金額を工賃として受け取ります。
雇用契約がないため、B型の工賃は「給与所得」ではなく「雑所得」に分類されます。給与所得であれば事業所が源泉徴収や年末調整を行いますが、雑所得は本人が自分で所得を計算し、必要に応じて確定申告する必要があります。
就労継続支援A型の賃金は給与所得として扱われる
就労継続支援A型は、利用者と事業所が雇用契約を結んで就労する仕組みです。支払われるのは「賃金」であり、これは給与所得に該当します。
給与所得の場合は事業所が源泉徴収を行うため、通常は本人が確定申告をしなくても税務処理が完結します。ただし副業収入が年間20万円を超えるケースなど、一部に確定申告が必要な場合もあります。
就労移行支援の工賃はどう扱われるか
就労移行支援事業所は、基本的に工賃を支払いません。就職に向けた訓練の場として位置づけられているためです。一部の事業所が生産活動の一環として少額の工賃を支給するケースはありますが、その場合は雇用契約に基づかない収入として雑所得に準じる形で扱われます。
就労移行支援では収入よりも利用料の有無や交通費の扱いを確認しておくことが多く、工賃の税務上の判断が必要になる場面は限られます。
・就労継続支援B型の工賃 → 雑所得(源泉徴収なし、確定申告の要否を自分で判断)
・就労継続支援A型の賃金 → 給与所得(源泉徴収あり、通常は年末調整で完結)
・就労移行支援 → 基本的に工賃なし(例外的に発生した場合は雑所得に準じる扱い)
- B型の工賃は雑所得に分類されるため、源泉徴収や年末調整は行われない
- A型の賃金は給与所得であり、事業所が税務処理を行う
- 就労移行支援では工賃は原則として発生しない
- 所得区分が異なると、適用される控除の種類と金額が変わる
工賃が非課税になる仕組み——家内労働者等の必要経費の特例とは
B型の工賃が非課税になる根拠として、国税庁が定める「家内労働者等の必要経費の特例」があります。この特例は、実際にかかった経費が少なくても一定額を必要経費として認める制度で、工賃収入の課税対象を大幅に圧縮します。この章では特例の内容と、非課税になる収入の目安を整理します。
家内労働者等の必要経費の特例の内容
国税庁のNo.1810「家内労働者等の必要経費の特例」によると、B型事業所の利用者は「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行う者」として、この特例の対象になります。
特例の内容は、実際の必要経費が一定額(令和7年分以降は65万円、令和2年分から令和6年分までは55万円)に満たない場合でも、その上限額まで必要経費として所得の計算に使えるというものです。つまり、通勤費などの実費がほぼゼロであっても、65万円分の経費を差し引いて雑所得を計算できます。なお、令和7年分の適用については令和7年12月1日施行のため、最新の適用関係は国税庁のQ&Aページでご確認ください。
非課税になる工賃の目安(令和6年分まで)
令和6年分(2024年分)まで、B型の工賃のみが収入で他に所得がない場合の計算は次のとおりです。特例経費55万円を差し引いた後の雑所得から、さらに基礎控除48万円を引きます。
55万円(特例経費)+48万円(基礎控除)=103万円。年間の工賃収入が103万円以下であれば、課税対象となる所得がゼロになり、所得税はかかりません。
| 収入の種類 | 特例経費 | 基礎控除 | 非課税の目安 |
|---|---|---|---|
| B型工賃のみ(令和6年分まで) | 55万円 | 48万円 | 年103万円以下 |
| B型工賃のみ(令和7年分から) | 65万円 | 95万円(予定) | 年160万円以下(予定) |
B型の平均工賃と非課税ラインの関係
厚生労働省の工賃実績データによると、就労継続支援B型の平均工賃月額は全国平均で2万円台から3万円台の水準です。年間に換算すると24万〜36万円程度となり、多くの利用者が103万円(または160万円)のラインを大きく下回ります。
月額の工賃が5万円以上に達する水準でなければ、工賃収入のみで所得税がかかる状況にはなりにくいといえます。ただし副業収入や他の雑所得が加わる場合は合算して判断する必要があり、注意が必要です。
- B型工賃には「家内労働者等の必要経費の特例」が適用される
- 令和6年分まで:年間工賃103万円以下なら所得税は非課税
- 令和7年分以降:特例経費・基礎控除の引き上げにより非課税の範囲が拡大(最新情報は国税庁でご確認ください)
- 平均的な工賃水準では、所得税が発生するケースはごく少数
確定申告が必要になるケース——見落としやすい3つの状況
工賃収入のみであれば確定申告が不要な場合がほとんどですが、他の収入がある場合や、逆に還付を受けたい場合には申告が必要になることがあります。「自分には関係ない」と思いがちな場面でも要件に該当することがあるため、代表的なケースを整理しておきましょう。
副業収入がある場合
B型の工賃以外に副業で収入を得ている場合、工賃と副業収入を合算した雑所得で判断します。合計が家内労働者等の特例経費(令和6年分まで55万円)を超えると、超過分が課税対象になる可能性があります。
副業がアルバイトなど給与形態であれば、給与所得として別に計算されます。給与収入が55万円以上あると、家内労働者等の特例は工賃部分に適用されなくなる点に注意が必要です(国税庁No.1810に明記)。
医療費控除を受けたい場合
工賃収入のみで通常は確定申告が不要な方でも、医療費が多くかかった年は医療費控除を申請するために確定申告が必要です。還付が発生する場合は、翌年1月1日から5年間、申告書を提出できます。
障害のある方は通院や服薬にかかる費用が発生しやすい場合があります。年間の医療費が10万円(または合計所得金額の5%、いずれか低い方)を超えた場合は、確定申告で控除を受けるとよいでしょう。
障害年金と工賃を両方受け取っている場合

障害基礎年金や障害厚生年金は、所得税法上は非課税です。そのため、工賃との合算で所得税の計算をする必要はありません。ただし住民税の非課税判定には障害年金を収入として含めない扱いとなっており、この点は混乱しやすいため注意が必要です。
障害年金の受給がある方で、工賃や他の収入が少額の場合は、住民税が非課税になる可能性が高くなります。ただし自治体によって非課税の基準額や計算方法に差異があるため、お住まいの自治体の税務窓口で確認しておくと安心です。
・副業収入(雑所得)と工賃の合計が特例経費を超える場合
・給与収入が55万円以上ある場合(特例の適用外となる)
・医療費控除や他の還付を受けたい場合
・上記に該当しない方も、念のため税務署またはe-Taxの案内で確認しておくとよいでしょう
- 工賃のみが収入であれば、多くの場合は確定申告不要
- 副業収入がある場合は合算で判断が必要
- 給与収入が55万円以上あると家内労働者等の特例が適用されなくなる
- 医療費控除を受けたい場合は還付申告として確定申告できる
住民税への影響——所得税とは別の非課税ルール
所得税が非課税でも、住民税が別途かかる場合があります。住民税は所得税と計算の仕組みが異なり、非課税の判定基準も変わります。特に障害のある方には、住民税独自の非課税ルールが設けられており、この点を把握しておくことで生活設計がしやすくなります。
住民税の基本的な非課税ライン
住民税(所得割)の非課税基準は自治体によって異なる部分がありますが、一般的な目安として合計所得金額が45万円以下(自治体によって異なる場合あり)であれば非課税となります。均等割についても自治体によって基準が設けられています。
B型の工賃収入のみで、家内労働者等の特例経費を適用した後の雑所得が基準額以下であれば、住民税の所得割もかかりません。ただし住民税の非課税基準は自治体が独自に設定する部分があるため、正確な金額はお住まいの市区町村の住民税窓口でご確認ください。
障害者本人への特例——合計所得135万円以下で住民税非課税
障害者本人(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等の交付を受けている方)の場合、前年の合計所得金額が135万円以下であれば住民税が非課税になります。
この特例は通常の非課税ラインよりも大幅に上の水準です。B型の月額工賃が平均的な水準であれば、家内労働者等の特例経費を差し引いた後の合計所得は135万円を下回ることがほとんどで、住民税が非課税になる可能性が高くなります。最終的な判断はお住まいの市区町村にご確認ください。
家族の扶養控除・配偶者控除への影響
家族の税務申告で扶養控除や配偶者控除を受けるためには、扶養される方の合計所得金額が一定以下であることが要件です。
国税庁の案内では、家内労働者等の特例のみで所得がある方の場合、年間収入が所定の金額以下であれば扶養控除・配偶者控除の対象になると整理されています。令和6年分まで:年間収入123万円以下、令和7年分以降:年間収入123万円以下(税制改正によって変わる可能性があります)。最新の基準は国税庁のタックスアンサーまたは確定申告書等作成コーナーで確認するとよいでしょう。
・障害者本人は合計所得135万円以下で住民税が非課税(自治体に要確認)
・扶養控除の対象になるかは合計所得金額で判定する
・令和7年分以降は税制改正により基準額が変わる可能性あり
・最新情報は国税庁タックスアンサー・市区町村税務窓口で確認を
- 住民税は所得税とは別のルールで非課税判定される
- 障害者本人は合計所得135万円以下で住民税が非課税になる特例がある
- 家族の扶養控除への影響は合計所得金額で判断する
- 税制改正により基準が変わることがあるため、申告前に最新情報を確認するとよい
相談できる窓口と手続きの進め方
工賃の税務判断は状況によって異なり、副業収入や家族の収入状況、障害者控除の種類などが絡み合うことがあります。自分で計算が難しいと感じた場合は、専門の窓口に相談するのが確実な方法です。ここでは利用しやすい相談先と手続きの基本的な流れを整理します。
税務署の無料相談を活用する
国税庁の管轄である税務署では、確定申告の時期を中心に無料の税務相談窓口を設けています。工賃の所得区分や家内労働者等の特例の適用可否、確定申告書の書き方など、個別の状況に応じて案内を受けられます。
事前に電話で相談内容を伝えておくと、担当部署に案内されてスムーズに相談できます。お住まいの地域を管轄する税務署は、国税庁ウェブサイトの「税務署の所在地などを知りたい方」ページから検索できます。
市区町村の税務課に相談する
住民税の非課税判定や障害者控除の手続きは、お住まいの市区町村の税務課(住民税担当)が窓口です。住民税は地方税のため、所轄税務署ではなく市区町村が担当します。
障害者本人の非課税確認、扶養控除の影響、住民税申告の必要性などは市区町村の窓口で確認するとよいでしょう。自治体によっては電話や郵送でも対応しているところがあります。
e-Taxとオンライン手続きを使う方法
国税庁が提供する「確定申告書等作成コーナー」では、画面の案内に沿って金額を入力するだけで申告書を作成・送信できます。家内労働者等の特例の適用に関する計算書の添付も、オンラインで対応しています。
また、国税庁ウェブサイトのチャットボットや電話相談センター(国税局電話相談センター)でも、確定申告の疑問に答えてもらえます。確定申告の時期(翌年2月中旬〜3月中旬)は混雑するため、早めに情報を集めておくとよいでしょう。
| 相談先 | 対応内容 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 税務署 | 所得税の確定申告、家内労働者等の特例 | 国税庁ウェブサイトで管轄税務署を検索 |
| 市区町村税務課 | 住民税の非課税判定、障害者控除の申告 | 各自治体の窓口へ事前に電話確認 |
| e-Tax・作成コーナー | 確定申告書の作成・送信 | 国税庁「確定申告書等作成コーナー」から利用 |
- 所得税の相談は管轄税務署(国税庁ウェブサイトで検索可能)
- 住民税の相談はお住まいの市区町村税務課
- 確定申告書はe-Taxで自宅から作成・提出できる
- 家内労働者等の特例を適用する際は計算書の添付が必要
まとめ
就労継続支援B型の工賃は雑所得に分類され、「家内労働者等の必要経費の特例」が適用されることで、多くの場合は所得税も住民税も非課税になります。
まずは自分の年間工賃額を確認し、他に副業収入や給与収入がないかを整理するところから始めてみましょう。副業がある場合や給与収入がある場合は、家内労働者等の特例が適用されるかどうかの確認が欠かせません。税務署の無料相談やe-Taxの確定申告書等作成コーナーを活用すれば、個別の状況に応じた判断ができます。
税制は毎年改正が行われます。令和7年分以降は特例経費の引き上げにより非課税の範囲が広がる見込みですが、詳細は国税庁のウェブサイトまたはお住まいの税務署でご確認ください。工賃の税の仕組みを理解しておくことが、安心して就労継続支援を利用するための基本的な一歩になります。
本記事の内容は、厚生労働省・自治体などの公的機関の公開資料をもとに整理したものです。制度・利用条件・支給額などは改正・変更される場合があります。最終的な判断や申請手続きの前には、必ずお住まいの自治体窓口や各事業所の最新情報をご確認ください。

