就労継続支援A型事業所(以下、A型事業所)で働くと、給料から何が引かれるのか、税金はかかるのかと気になる方は少なくありません。雇用契約を結ぶA型事業所は、障害福祉サービスでありながら労働基準法や最低賃金法が適用されるため、給与の仕組みは一般の会社員と似た部分があります。ただし、障害者本人には税制上の特別なルールがあり、多くの方が所得税・住民税の対象にならないケースがほとんどです。
この記事では、A型事業所の給料の平均水準から、手取りに影響する控除の内容、障害者控除・雇用保険・社会保険の加入条件まで、制度の観点から整理しています。確定申告や年末調整で何をすればよいかについても、流れを追って説明します。
「給料が出ても税金で持っていかれるのでは」と不安に感じている方に、実際の仕組みを知ってもらえれば、少し安心できるはずです。
A型事業所の給料はどれくらい?平均と手取りの目安
A型事業所の給料水準と、実際に手元に残る手取り額の目安を、制度の仕組みから整理します。平均額はあくまで全国の目安であり、地域や事業所・勤務時間によって大きく異なります。
全国平均と地域差
厚生労働省の令和5年度工賃(賃金)の実績によると、就労継続支援A型事業所の全国平均月収は86,752円、時給換算で約995円です。A型事業所は都道府県ごとの最低賃金以上を支払う義務があるため、最低賃金が高い都市部ほど平均が上がる傾向にあります。
事業所によって給与水準には幅があり、月収5万円台から、専門的な仕事を担う一部の事業所では10万円以上のケースもあります。見学や体験利用の際に、その事業所の実際の賃金水準を確認しておくとよいでしょう。
手取りの計算式と引かれる項目
A型事業所で働く方の手取り額は、基本的に次の式で計算できます。給与総支給額から、雇用保険料・(条件によっては社会保険料)・利用料・交通費を差し引いた金額が手元に残る金額です。
多くの方は週20〜25時間程度の勤務で、主に雇用保険料のみが引かれます。月収約86,000円の場合、雇用保険料は約516円(料率0.6%、令和6年度)と少額です。利用料については後の章で説明しますが、約9割の方が0円です。
B型事業所との収入の違い
就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)は雇用契約を結ばないため、支払われるのは「工賃」という形になります。全国平均月額は約23,000円程度で、最低賃金法の適用外です。A型事業所が最低賃金以上の「給料」を保障しているのとは、仕組みが根本的に異なります。
どちらが合うかは、体調の安定度・通所できる日数・将来の目標によって変わります。A型は一定の安定した勤務ができることが前提であり、体調に波がある時期はB型や就労移行支援との組み合わせを検討する選択肢もあります。
・全国平均月収:約86,752円(令和5年度、厚生労働省)
・最低賃金以上が法律で保障(都道府県ごとに異なる)
・手取り=給与 − 雇用保険料(月数百円)− 利用料 − 交通費
・B型の工賃(全国平均約23,000円)とは制度・金額ともに異なる
- A型の平均月収は約86,000円(令和5年度の全国平均)で、地域・事業所によって差がある
- 手取りに影響する主な控除は雇用保険料(月数百円)で、多くの場合は税金が引かれない
- B型事業所とは雇用契約の有無・給与水準の両面で大きく異なる
- 見学・体験利用で実際の賃金水準を確認しておくと安心
A型事業所の給料に税金はかかる?所得税・住民税の仕組み
A型事業所で働く方が税金について心配するケースは多いですが、実際には所得税・住民税ともに非課税になる方がほとんどです。ただし、条件を正しく把握しておくことが大切です。
所得税が課税されないケースがほとんどの理由
所得税は、給与収入から給与所得控除と各種所得控除を差し引いた「課税所得」がゼロ以下であれば課税されません。給与所得控除の最低保障額は55万円であり、基礎控除48万円と合算すると103万円まで課税所得がゼロになります(2025年度改正前の基準)。
A型事業所の平均月収は約86,000円(年収約103万円程度)であり、これに障害者控除(27万円。特別障害者は40万円)が加わります。国税庁のNo.1160では、障害者控除は所得金額から一定額を差し引く所得控除の一つと定められています。結果として、A型事業所の標準的な収入水準では所得税が発生しないケースがほとんどです。
住民税が非課税になる条件
住民税については、障害者本人が前年の合計所得金額135万円以下(給与収入のみの場合は年収約204万円以下)であれば非課税となります。東京都主税局などの自治体が示す基準と同様に、各自治体が同様のルールを採用しています。
A型事業所の平均月収で働いている方の年収は100万円前後となるため、この基準を大きく下回るケースがほとんどです。障害年金を受給している方については、障害年金は非課税所得に分類されるため、年収の計算に含める必要はありません。
障害者控除の種類と金額
障害者控除は、障害の区分と同居の状況によって控除額が異なります。国税庁のNo.1160によると、一般障害者(身体障害者手帳3〜6級、精神障害者保健福祉手帳2・3級等)は所得税で27万円、特別障害者(手帳1・2級等)は40万円が控除されます。同居特別障害者の場合は75万円です。
この控除は年末調整や確定申告で申告することで適用されます。申告していない場合は適用されないため、事業所からの案内に従って手続きをしておくことが大切です。控除額や対象要件の詳細は、国税庁ウェブサイト(No.1160 障害者控除)でご確認ください。
| 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|
| 一般障害者 | 27万円 | 26万円 |
| 特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
- A型事業所の標準的な収入水準では、所得税・住民税ともに課税されないケースがほとんど
- 住民税は障害者本人の合計所得が135万円以下であれば非課税(給与のみで年収約204万円以下)
- 障害年金は非課税所得のため、年収計算に含めなくてよい
- 障害者控除は年末調整か確定申告で申告しないと適用されない
- 最新の控除額・要件は国税庁ウェブサイトで確認を
雇用保険と社会保険の加入条件と手取りへの影響

A型事業所で働く際、雇用保険と社会保険のどちらに加入するかは、勤務時間や事業所の規模によって変わります。それぞれの加入条件と、手取りへの影響を整理します。
雇用保険の加入条件と保険料
雇用保険は、週所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合に加入の対象となります。厚生労働省の調査によると、A型事業所の利用者の9割以上が週20時間を超えて就労しているため、多くの方が加入対象です。
令和6年度の労働者の雇用保険料率は0.6%です。月収86,000円の場合、控除額は約516円と少額です。雇用保険に加入していると、退職後に一定条件を満たした場合に失業給付を受けられるメリットもあります。
健康保険・厚生年金の加入条件
健康保険・厚生年金については、加入条件が異なります。所定労働時間が週30時間以上の場合、または月額賃金が8.8万円以上で従業員数が一定以上の事業所で週20時間以上働く場合は、加入対象となります。A型事業所では1日4〜5時間の勤務が多いため、週30時間を超えるケースは少なく、健康保険・厚生年金に加入している方は限られます。
ただし、加入した場合は保険料を事業所と労使折半(それぞれ約半額)で負担できます。国民健康保険料や国民年金保険料を全額自己負担するよりも、1人あたりの負担が軽くなるケースがあります。加入の可否は、各事業所の雇用条件を事前に確認しておくとよいでしょう。
労災保険の自動適用
A型事業所で雇用契約を結ぶ利用者は、労災保険に自動的に加入します。業務中や通勤途中のケガや病気に対して、治療費・休業補償などの給付が受けられます。保険料の全額は事業所側が負担するため、労働者側に負担はありません。
・週20時間以上:雇用保険+労災保険に加入(ほとんどの利用者)
・週30時間以上 または 月収8.8万円以上で規模要件を満たす事業所:健康保険・厚生年金も加入対象
・労災保険:全利用者に自動適用、保険料は事業所負担
- 雇用保険は週20時間以上+31日以上雇用見込みで加入(保険料は月数百円)
- 健康保険・厚生年金は週30時間以上か、月収8.8万円以上で規模要件を満たす事業所が対象
- 労災保険は全利用者に自動適用され、保険料負担はない
- 加入条件は各事業所の雇用契約書・就業規則で確認を
利用料の仕組みと支払いが不要になる条件
A型事業所は働く場所であると同時に、障害福祉サービスの「利用者」でもあります。サービス利用料が発生するかどうかは、世帯の住民税の課税状況によって決まります。手取りに直結する部分ですので、自分の区分を確認しておきましょう。
利用料の計算の仕組み
障害福祉サービスの自己負担額は原則として費用の1割ですが、世帯収入に応じた月額上限が設定されています。厚生労働省の「障害者の利用者負担」では、生活保護受給世帯と市区町村民税非課税世帯は自己負担額が0円(無料)と定められています。
世帯の範囲は、利用者が18歳以上の場合、本人と配偶者のみを一世帯として計算します。親や兄弟の収入は原則として含まれません。また、配偶者がいる場合は、配偶者もそれぞれ非課税かどうかを個別に判定します。
利用料が無料になる方の割合
各種調査によると、就労継続支援A型事業所の利用者の約91〜93%が利用料0円です。A型事業所を利用する方の多くが住民税非課税世帯に該当するためです。住民税非課税の方が利用料も無料になる構造は、前の章で説明した「住民税非課税のメリット」のひとつでもあります。
有料になる場合の上限額
住民税が課税される世帯(市区町村民税課税世帯)の場合は、月額9,300円が自己負担上限額となります。ただし、この区分に該当する方はA型事業所の利用者全体のごく一部です。また、軽減制度が設けられているケースもあるため、対象になりそうな場合は自治体の窓口に確認するとよいでしょう。
自己負担上限額の最新情報は厚生労働省の「障害者の利用者負担」のページ(厚生労働省公式サイト)でご確認ください。制度の改正が行われる場合があるため、サービス開始前に必ず最新の情報を参照してください。
- 利用料は世帯の住民税の課税状況によって決まり、非課税世帯は0円
- 約91〜93%の方が利用料0円(厚生労働省の調査より)
- 世帯範囲は18歳以上の利用者本人と配偶者のみ(親・兄弟の収入は含まない)
- 課税世帯の上限額は月9,300円だが、軽減制度もあるため自治体窓口に確認を
年末調整と確定申告で知っておくべきこと
A型事業所で働く方が税の手続きで注意したいのは、障害者控除の申告漏れです。年末調整や確定申告で正しく申告しておけば、多くの場合は税金の還付が受けられるか、そもそも課税されない状態が維持されます。
年末調整での手続き
A型事業所で雇用契約を結んでいる方は、一般の会社員と同様に年末調整の対象です。毎年秋ごろに事業所から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が配付されます。この書類の「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」の欄に、障害の区分を記入して提出すれば、障害者控除が適用されます。
申告に必要な添付書類は、法律上の義務としては設けられていませんが、障害者手帳のコピーを求める事業所もあります。事業所の担当者に確認しておくとスムーズです。
確定申告が必要なケース
年末調整で申告し忘れた場合や、複数の収入源(例:副業収入)がある場合は、翌年2月16日から3月15日の間に確定申告を行います。障害者控除の申告に期限は決まっており、申告内容に誤りがあった場合は「更正の請求」によって正しい税額に訂正できます。
なお、A型事業所のみの収入の方で年末調整を完了している場合、確定申告は原則として不要です。医療費控除など他の控除を追加で申請したい場合は任意で行えます。
扶養されている方が注意すべき点
家族の扶養に入っている場合、税務上の扶養(年収103万円基準)と社会保険の扶養(年収130万円・106万円基準)で条件が異なります。A型事業所の平均的な収入水準では税務上の扶養から外れるケースは少ないですが、社会保険の扶養については事業所の規模や雇用条件によって判断が変わることがあります。
障害年金は非課税所得であり、税務上の扶養の計算(103万円)には含みません。ただし、社会保険の扶養判定については自治体や保険者によって取り扱いが異なる場合があるため、不明な点はお住まいの自治体や加入する健康保険の窓口に問い合わせてください。
・年末調整:事業所から配付される申告書に障害者控除を記入して提出
・申告漏れは翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で対応可
・障害年金は税務上の収入に含めない(非課税所得)
・社会保険の扶養判定は別の基準なので個別確認を
- 年末調整で障害者控除の申告書を必ず提出する(申告しないと控除されない)
- 申告漏れは確定申告で対応可能(期限:翌年2月16日〜3月15日)
- A型事業所のみの収入で年末調整済みなら、確定申告は原則不要
- 扶養を巡る税務・社会保険の判定は条件が異なるため、不明な場合は窓口へ
まとめ
A型事業所の給料と税金の関係を整理すると、多くの方にとって所得税・住民税ともに課税されず、手取りはほぼ給与に近い金額になります。障害者控除という税制上の仕組みが、これを支えています。
まず確認したいのは、年末調整で障害者控除の申告書を提出しているかどうかです。事業所から配付される書類に記入して提出するだけで適用されるため、もし未申告の場合は担当者に相談してみてください。
手取りや税金の仕組みが分かると、生活設計がしやすくなります。利用料・雇用保険・社会保険の条件も含めて、事前に事業所の担当者や相談支援専門員に確認しながら進めていただければ幸いです。
本記事の内容は、厚生労働省・自治体などの公的機関の公開資料をもとに整理したものです。制度・利用条件・支給額などは改正・変更される場合があります。最終的な判断や申請手続きの前には、必ずお住まいの自治体窓口や各事業所の最新情報をご確認ください。


